原状回復ガイドラインでは、「どのような場合に大家様または借主負担になるのか」という考え方の指針が定められており、その内容を理解しておくことは重要です。
しかし、実務上はそれと同じくらい大切なことがあります。
それは、退去時に見つかった傷や汚れが、もともとあったものなのか、それとも入居期間中に発生したものなのかを明確にすることです。
この点が曖昧だと、退去時に、
「これは入居前からありました」
「いや、入居時にはありませんでした」
という争いになりやすくなります。
そのため、入居前の状態を記録する「現況確認書」をきちんと作成しておくことが非常に重要です。
本記事は、当社YouTubeチャンネルで公開している
「原状回復トラブルを防ぐ「現況確認書」」
という動画の内容を、文字で整理したものです。
現況確認書とは何か
現況確認書とは、入居前の室内状態を記録しておく書面です。
壁や床、建具、設備などについて、もともと傷や汚れがある場合に、その内容を記録しておきます。
国土交通省の原状回復ガイドラインでも、入居前の状態を記録する書式例が示されています。
任意の書面ではありますが、原状回復トラブルを防ぐためには、非常に有効な資料です。
ただし、実務上よく使われている書式には、いくつか問題点もあります。
入居者任せになっている
一番大きな問題は、現況確認書の作成を入居者任せにしているケースが多いことです。
実務上は、契約書の控えや鍵を渡す際に、現況確認書も一緒に渡し、「入居後1週間以内に記入して返送してください」という対応がよくあります。
しかし、入居者の方は、どこをどの程度まで書けばよいのか分かりません。
その結果、退去時に傷が見つかり、現況確認書に記載がなかったとしても、
「こんな細かいところまで書く必要があるとは知りませんでした」
「書いていないだけで、もともとありました」
と言われてしまう可能性があります。
これでは、せっかく現況確認書を渡していても、トラブル防止の効果が弱くなってしまいます。
返送管理がされていない
また、現況確認書を渡したものの、返送されたかどうかを確認していないケースもあります。
管理会社を引き継いだ際に、部屋によって現況確認書があったり、なかったりすることがあります。
これは、入居者が返送していないことに加えて、管理会社側で回収状況を管理していないことが原因です。
本来であれば、期限内に返送がなければ確認する必要があります。
しかし、実務上は渡しっぱなしになっていることも少なくありません。
その結果、退去時に、「私は送りました」「当時きちんと書いていました」という話になり、余計に揉める可能性があります。
現況確認書は貸主側で作成するべき
現況確認書は、できれば管理会社、募集会社、またはオーナー側で作成するべきだと考えています。
入居者に丸投げするのではなく、募集時または引渡し前に、貸主側できちんと室内状態を確認し、記録を残しておくことが重要です。
その方が、記録の精度も上がりますし、後々の紛争防止にもつながります。
リストだけでは場所が分かりづらい
既存の現況確認書では、「玄関」「廊下」「台所」「居間」などの項目に分かれ、その中に「壁」「床」「天井」といった記入欄があることが多いです。
しかし、例えば「居室の壁に傷」と書かれていても、壁は通常4面あります。
どの壁のどのあたりなのかが分かりません。
これでは、退去時に同じ傷なのか、新たにできた傷なのかを判断しづらくなります。
間取り図に書き込む
そのため、現況確認書には間取り図を入れ、傷や汚れの場所を図面上に記録しておくことをおすすめします。
記載方法の一例としては、
窓枠中部引っかき傷
クロス上部シミ
建具下部に削れ
といった形です。
写真記録が非常に重要
現況確認書で特に重要なのが、写真です。
文字だけでは、傷や汚れの大きさ、深さ、範囲が分かりません。
「傷あり」と書かれていても、それが小さな擦り傷なのか、大きくえぐれた傷なのかは、文字だけでは判断できません。
そのため、現況確認書には必ず写真を残しておくべきです。
ガイドラインでも写真記録は推奨されている
原状回復ガイドラインでも、入居前の状態を記録する書面だけでなく、写真等で記録を残すことが推奨されています。
必須ではありませんが、トラブル防止という観点では非常に重要です。
現況確認書に記載すべき内容
では、現況確認書には具体的に何を書けばよいのでしょうか。
①物件情報
まずは、物件を特定する情報です。
建物名
部屋番号
所在地
確認日
このあたりは必ず記載しておいた方が良いです。
②場所と内容
次に、傷や汚れの場所と内容を記録します。
内容は、細かく書きすぎる必要はありません。
写真とセットで確認できれば十分です。
場所については、「上・中・下」「右・中央・左」など、大まかに分かるようにしておきます。
詳細は写真で補足する形が現実的です。
③残置物の有無
現況確認書では、残置物についても記録しておくことが重要です。
例えば、エアコンが2台ある場合に、1台はオーナー設置の設備、もう1台は前入居者が残していった残置物というケースがあります。
この場合、残置物であることを明記しておかないと、後で設備扱いになってしまう可能性があります。
代表的なものとしては、次のようなものがあります。
エアコン
照明器具
シーリングライト
温水洗浄便座
風呂ふた
ガスコンロ
④新品交換したもの
新品に交換したものも、現況確認書に記載しておくと良いです。
例えば、クロスは原則として6年で残存価値が1円になるという考え方があります。
もし入居前に新品に張り替えていた場合、そのことを記録しておけば、短期間で退去された際に請求しやすくなります。
反対に、記録がない場合は、いつ張り替えたのかを後から立証する必要があります。
見積書、請求書、内訳、支払い履歴などを探さなければならないこともあります。
現況確認書に「洋室クロス新品張替済」などと記載しておけば、交渉時の根拠として使いやすくなります。
私は、前面貼り替えの場合はその旨を記載し、部分貼り替えの場合は半透明の赤色の線などを貼り替え箇所に記しながら、その色の部分は貼り替え済みであることを記載しています。
写真で残すべきポイント
現況確認書を作る際、傷や汚れがある場所だけを撮影するのも良いですが、本当に重要なのは、「元々なかったこと」を証明できる写真を残すことです。
①室内全体を撮影する
まず、各部屋の全体写真を撮ります。
四角い部屋であれば、四方向から撮影し、壁・床・天井の状態が分かるようにします。
全体写真があれば、退去時に新たな傷や汚れが見つかった場合、「入居前の写真には写っていない」と説明しやすくなります。
②水回りや収納内部も撮影する
キッチン、浴室、洗面台、トイレなどの水回りも撮影します。
キッチンであれば、
天板
シンク
コンロまわり
引き出し内部
観音扉の内側
まで撮影しておくと安心です。
収納内部も、棚板や壁面に傷や汚れがあることがありますので、忘れずに撮影しておきます。
③設備の品番を撮影する
せっかく写真を撮るのであれば、設備の品番も記録しておくと便利です。
例えば、
エアコン
給湯器
温水洗浄便座
換気扇
インターホン
などです。
品番が分かれば、故障時にメーカーや年式を確認しやすくなります。
例えば、エアコンの不具合連絡があったときに、品番から年式を確認し、修理が可能なのか、交換すべきなのかを判断しやすくなります。
④傷や汚れはアップと引きで撮る
もともと傷や汚れがある場合は、写真の撮り方にも注意が必要です。
傷だけをアップで撮ると、どこの傷なのか分からなくなります。
そのため、
傷や汚れのアップ写真
少し引いて場所が分かる写真
の2枚を撮っておくことをおすすめします。
場合によっては、指を差した状態で撮影すると、どの部分の傷なのか分かりやすくなります。
まとめ|入居前記録が退去時トラブルを防ぐ
今回は、原状回復トラブルを防ぐための「現況確認書」について解説しました。
原状回復では、傷や汚れが「もともとあったものなのか」「入居後に発生したものなのか」が非常に重要です。
その判断をするためには、入居前の状態を記録しておく必要があります。
特に重要なのは、次の点です。
現況確認書を入居者任せにしない
貸主側・管理会社側で作成する
間取り図に場所を記録する
写真を必ず残す
残置物を明記する
新品交換したものを記録する
傷や汚れはアップと引きで撮影する
室内全体も撮影する
原状回復トラブルは、退去時になってから証拠を集めようとしても難しいことが多いです。
だからこそ、入居前の段階で記録を残しておくことが大切です。
現況確認書と写真記録をしっかり整えておけば、退去時の精算がスムーズになり、不要なトラブルを防ぐことにつながります。
ぜひ今回の内容を参考に、現況確認書の作成方法を見直していただければと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。


