契約の終了(約款解説)

最新更新日 2023年12月27日
執筆:宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士 三好 貴大

前回は「約款解説:一部滅失の賃料減額」ということで、国土交通省のホームページで掲載されている「賃貸住宅標準契約書」を例として、第12条に記載されているライフラインや設備の不具合などによって、一部が使えない場合の賃料減額について定めた条文について解説を行いました。

不動産業者でも契約約款に記載されている一文がどのような意味で、そのような場面のトラブルを抑止するために記載され、どのような場面で用いられるのかを理解していないケースが非常に多いため、実務をイメージして第13条の解説を行います。

賃貸借契約書(国土交通省、保証業者型)

 


第13条(契約の終了)

本契約は、本物件の全部が滅失その他の事由により使用できなくなった場合には、これによって終了する。


 

①民法 第616条の2

前回お伝えした「一部滅失による賃料減額」では、法律条文とほとんど同じ内容が契約約款にも記載されているとお伝えしましたが、今回も同様です。民法では以下の条文が定められています。

 

(賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了)

賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃貸借は、これによって終了する。

 

 

②滅失(めっしつ)

滅失とは、物件が消滅した(事実上使えなくなった)ときのことを指し、例えば火災によって全焼してしまった、地震によって倒壊してしまった場合などとなります。

しかし、実務的に判断が難しくなるのは、例えばお部屋の半分が燃えてしまった場合、もう半分は残っているため、滅失したとは言い切れない状況などです。

また、万が一そのような事態が発生したとき、ある問題が発生します。それは、「契約は終了なのか、解除なのか」と意見が対立し、貸主と借主の間で紛争が生じる可能性があることです。

 

第11条(借主からの解約)でお伝えしましたが、「解除」と「解約」は意味が異なります。解除は片方から相手方に求めるもので、解約の場合、申し出は片方からですが、一定の条件をクリアしていることで双方同意という解釈になります。

では、「終了」はどうかというと、「契約自体が消滅する」という概念になるため、片方や双方がどうこうではなく、一定の状況になったときは賃貸借契約自体がなくなってしまうということになります。

 

では、なぜ「終了」と「解除」でトラブルが発生するのでしょうか。

終了の場合は契約が消滅すること自体には誰も抗えず、責任を問われることはありません。(終了の原因は別ですが)

しかし、解除の場合は相当の理由がなければ行うことができず、もし相当の理由として足りないという場合は、その足りない分を何かしらで補う必要が出てきます。その際に発生するのが「立ち退き料」です。

つまり、大家さんにとっては「終了」が好ましく、借主にとっては「解除」が好ましいため、意見の対立が発生する可能性があるのです。

 

そもそも物件が滅失するようなケースがごく稀ですが、その分発生したときは冷静な判断と対応が求められます。

 

 

③その他の事由

滅失の場合は主に天災火災などが要因となりますが、「その他の事由」とはどのような事態が考えられるのでしょうか。

主に挙げられる要因は「収用」です。よく大きな道路を設ける際に関わってきますが、公共事業で該当の土地が必要になった場合、その土地や建物の所有者、建物の賃借人に対して補償を行うことで、行政がその土地を手に入れようとします。

しかし、中にはその土地や建物を手放したくないという方もいて、どうしても話し合いが成立しないときに、公共事業者が一定の手続きを踏むことで、強制的にその土地を手に入れる行為を「収用」といいます。

 

ただ、基本的には最初の話し合いの段階で、賃借人に対しても補償した上で退去が求められます。退去を拒み続けて占有を続けた後、建物所有者が収用によって建物を手放した場合、この事由に該当し、契約が終了することとなります。

いま皆さんが日常で利用している大きな道路なども元々は誰かの持っている土地でした。それらを都市計画により建て直しの際セットバックするよう定めて徐々に行っているケースもあれば、このような方法で造ったケースもあります。

 


今回の条文で定めているような火災による焼失や地震による倒壊、収用による契約の終了などは滅多に起こるものではありませんが、万が一そういった事態になった際はどのような取り扱いになるのか理解しておくことは重要です。

ご愛読いただきありがとうございました。

 

 

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