前回は「約款解説:借主からの解約」ということで、国土交通省のホームページで掲載されている「賃貸住宅標準契約書」を例として、第11条に記載されている契約の解除に関する条文について解説を行いました。
不動産業者でも契約約款に記載されている一文がどのような意味で、そのような場面のトラブルを抑止するために記載され、どのような場面で用いられるのかを理解していないケースが非常に多いため、実務をイメージして第12条の解説を行います。
第12条(一部滅失等による賃料の減額等)
本物件の一部が滅失その他の事由により使用できなくなった場合において、それが乙の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用できなくなった部分の割合に応じて、減額されるものとする。この場合において、甲及び乙は、減額の程度、期間その他必要な事項について協議するものとする。
2 本物件の一部が滅失その他の事由により使用できなくなった場合において、残存する部分のみでは乙が賃借をした目的を達することができないときは、乙は、本契約を解除することができる。
賃貸借では、契約を行った時点で使用できるライフラインや設備を使える対価として、賃料が発生しています。ということは、それらが借主の責任ではなく、何等かの理由で使えなくなったときは、その分「対価=賃料」は下がってしまう、ということを明文化した条文です。
この条文が主に使われ始めたのは今年(2020年)4月からとなりますが、その理由は2020年4月1日から施行された民法の大改正によるものです。非常に多くの民法が改正され、賃貸借に関係する中では連帯保証人の極度額設定が大きな話題となりましたが、この賃料減額もその一つです。
以前は一部滅失(トイレが壊れたなど)の時は「賃料の減額を請求できる」となっていましたが、民法改正により「賃料は当然に減額される」という内容に変更となりました。
改正民法の条文内容はこの第12条とほとんど同じ内容で、多くの契約約款に盛り込まれることとなりました。
では、万が一ライフラインや設備の不具合が生じてしまった場合、どのような対応をすればいいのでしょうか。
契約約款では「減額の程度、期間その他必要な事項について協議する」と定めていて、結局は「話し合いで決めなさい」とされています。改正民法でも同様で、減額する金額については明確な線引きや指針は定められていません。
それでは貸主側は減額を少なくしたい、借主側は減額を多くしたいと双方の意見が合致し辛くなってしまうため、「公益財団法人日本賃貸住宅管理協会」ではガイドラインを公表しました。
日管協版「貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン」を一般公開
このガイドラインによると、ライフラインや設備の不具合が発生した際、不動産オーナーとしてどんなに急いで対応しても当日中に対応というのは困難という事情を考慮し、「免責期間」を設けています。
免責期間内に不具合を解消すれば賃料減額の対象にはならず、免責期間を過ぎた後は一定の割合を日割り計算して減額することが好ましいとしています。
ガイドラインの中には以下のような例も記載されています。
【例】ガスが6日間使えなかった場合、月額賃料100,000円
= 1,000 円の賃料減額(1日あたり約333円)
ぜひ一度、ガイドラインの内容に目を通してみることをオススメします。
上記のガイドラインの例を見ると、「6日間もガスが使えなかったのに、1,000円ということは実質的に賃料の1%を減額すればいいので、大したことないんじゃ・・・」と感じる方もいると思います。実は、この金額だけを見ると私も同じ考えを抱きます。
しかし、ライフラインや設備の不具合を直に対応する者としては、1,000円の減額で賃貸トラブルが収まるとは考え辛く、かえって「これだけ不便を被ったのに1,000円の減額でどうですか?とは喧嘩を売っているのか!」と炎上する可能性があります。
設備トラブルの一番の問題は、お金ではなく「感情」の問題です。私の経験上、設備トラブルもスピード感を持って対応し、解決に向けた姿勢を示し、説明や適切な謝罪を行って誠意を見せて対応してきましたが、賃料減額を請求されることはありませんでした。
反対に、後手にまわって対応が遅れ、なぜ時間が掛かるのかなど説明を怠り、謝罪の一言もないまま対応すれば、「賃料を減額しろ!」となるのは当然だと思います。
感情の問題は大きな火種となりますので、「直さないなら賃料を払う気はない」と賃料滞納が発生し、収入が減ることで修繕費の捻出も難しくなり、最終的に収入が減った挙句立ち退き費用で多額の出費が発生して大損害となる可能性もあります。
もちろんトラブルの解決は重要ですが、もっと重要なことは賃貸トラブルを「未然に防ぐこと」です。設備の不具合や給水管の水漏れ、雨漏りなどライフラインや設備の不具合はリフォームや大規模修繕を適切に行うことで未然に防ぐことができます。
しかし、それらには相応のコストが掛かりますので、その資金がない大家さんも多く存在しています。そのために、収支改善を行い、建物の維持管理の計画を練り、計画的に賃貸経営を存続させることでそれらが可能となります。
その結果、収入が増え、経費が下がり、トラブルも発生せずに快適な賃貸経営を行うことができます。
このように、民法改正により一部滅失による賃料減額の条文が追加されましたが、賃料減額の金額で交渉するのではなく、そもそもそういったことが起こらない状態を作るために取り組んでいくことが望まれると思います。
ご愛読いただきありがとうございました。