前回は「約款解説:契約の解除」ということで、国土交通省のホームページで掲載されている「賃貸住宅標準契約書」を例として、第10条に記載されている契約の解除に関する条文について解説を行いました。
不動産業者でも契約約款に記載されている一文がどのような意味で、そのような場面のトラブルを抑止するために記載され、どのような場面で用いられるのかを理解していないケースが非常に多いため、実務をイメージして第11条の解説を行います。
第11条(乙からの解約)
乙は、甲に対して少なくとも30 日前に解約の申入れを行うことにより、本契約を解約することができる。
2 前項の規定にかかわらず、乙は、解約申入れの日から30 日分の賃料(本契約の解約後の賃料相当額を含む。)を甲に支払うことにより、解約申入れの日から起算して30 日を経過する日までの間、随時に本契約を解約することができる。
借主から「明日引越すので、明日解約します」と突然言われても、家主としては次の入居者を探すための準備や解約後の諸々を考えると困ります。そのため、民法上では借主から解約を申し出る場合には「3か月前」と規定しています。
しかし、3か月前では何かと不便なので、実務上では「1か月前」としているケースが多いです。
なぜ多くの不動産会社では国土交通省の定める「30日前」ではなく、「1か月前」としているのでしょうか。
例えば、1月31日(末日)に解約予告をした場合、うるう年でなければ3月2日が解約日となります。また、7月31日(末日)に解約通知をした場合、8月30日が解約日になるなど、月によって解約日が分かり辛くなってしまうことが理由です。
しかし、「1か月前」という表現でも多少曖昧に感じますが、実は民法140条と141条で明確に定めています。条文内容は後記しますが、各月の末日に解約予告した場合は以下のようになります。
【予告日 → 解約日】
1月31日 → 2月28日(うるう年の場合は29日)
2月28日 → 3月28日(うるう年の場合はともに29日)
3月31日 → 4月30日
4月30日 → 5月30日
5月31日 → 6月30日
6月30日 → 7月30日
7月31日 → 8月31日
8月31日 → 9月30日
9月30日 → 10月30日
10月31日 → 11月30日
11月30日 → 12月30日
12月31日 → 1月31日
なんだか一覧で見るとややこしいですね。簡単に要点をお伝えすると、
(1)原則:翌月の同じ日
(2)翌月の同じ日が存在しない場合:前倒し
となります。
先ほどの例では、人によって「30日に解約予告して30日に解約ということは、同じ30日は重複しているので、1日多くなるのでは?」と疑問が湧くと思います。それを定めているのが以下の民法です。
第140条
第141条
つまり、30日に解約予告した場合は、その翌日である31日、または翌月1日が予告期間の開始となります。
似ている言葉ですが、異なる性質を持っています。分かりやすく表現すると以下のようになります。
解約・・・双方同意の上で契約を終了させる。
解除・・・一方向からの要求で契約を終了させる。
例えば、解約予告を行って契約を終了させることは契約に基づいて双方同意しているため、「解約」となります。
しかし、家賃滞納により契約を終了させる場合の多くは、借主は「住み続けたい=解約したくない」という気持ちがあり、貸主は「出ていって欲しい=解約したい」という気持ちがあります。つまり、貸主からの一方向からの要求で契約を終了させることになりますので、契約の「解除」となります。
また、家賃滞納を原因に貸主から退去を求め、借主が同意して解約することになった場合は「合意解約」と呼び、双方の同意が成立したため、言葉が「解約」となっています。
それを踏まえて前回の第10条(契約の解除)を読むと「契約の”解除”」となっていることが分かり、その意味が理解できると思います。
2項のような条文を「即時解約」といいます。30日分の賃料を支払うことで、すぐに解約することができるという内容です。
この条文の効力を必要とする主な場面は「契約満期日の30日未満に解約したいとき」となります。もし満期日の15日前に解約予告を行うと、一度更新をしてから解約という扱いになり、更新料等が発生します。(満額の支払いになるかどうかは別)
そのため、予告期間分の賃料を支払うことで、解約日を前倒しすることができるようにするために設けられたのがこの条文となります。
不動産オーナーや不動産管理会社では当たり前のように行っている解約業務ですが、実はこのように様々な基本の法律のもとに成り立っています。
特に即時解約の条項を理解しておけば、大家さんにとっては賃料の入っている期間内に原状回復や入居者募集を行うことができる状態を生み出せる可能性があるため、条文の内容を理解して実務で活かすことが重要です。
ご愛読いただきありがとうございました。