定期借家契約を締結する際、賃貸借契約書とは別紙を設けて、定期借家契約であることを説明する必要があります。
ということは、「重要事項説明書があれば、定期借家契約の事前説明書は別に用意しなくてもよいのではないか」と考える方もいるかもしれません。
結論から申し上げると、定期借家契約では、原則として重要事項説明書とは別に「事前説明書」とその説明が必要です。
ただし、一定の要件を満たした重要事項説明書を使用し、適切に説明を行えば、重要事項説明書を定期借家契約の事前説明書と兼ねることができます。
今回は、令和2年の東京地方裁判所の裁判例と、その後に令和6年に示された宅建業者の責任に関する裁判例を基に、定期借家契約における事前説明の重要性と、実務上の対策について解説します。
本記事は、当社YouTubeチャンネルで公開している
「定期借家契約の事前説明は重説があれば不要?」
という動画の内容を、文字で整理したものです。
定期借家契約では事前説明が重要
定期借家契約は、契約期間が満了すると、原則として契約が終了する賃貸借契約です。
普通借家契約のように当然に契約が更新されるものではないため、借主にとって非常に重要な違いがあります。
そのため、定期借家契約を締結する際には、オーナーから借主に対して、「この契約には更新がなく、期間満了によって契約が終了する」という内容を、契約締結前に書面を交付して説明する必要があります。
この手続きを適切に行わなければ、定期借家契約が認められず、普通借家契約となってしまいます。
重要事項説明書だけを作成した事例
今回の裁判例では、オーナーが宅建業者へ、定期借家の契約手続きを依頼していました。
宅建業者がオーナーの代理人として、借主であるテナントとの契約手続きを行うという、不動産実務では一般的に見られる形です。
宅建業者は重要事項説明書を作成し、借主へ重要事項説明も行っていました。
しかし、定期借家契約についての独立した事前説明書を作成していませんでした。
その後、賃貸借契約が終了する旨の「終了通知」を行いました。
ところが、テナント側は、「定期借家契約に必要な事前説明が適切に行われていないため、この契約は定期借家契約ではない」と主張し、明け渡しを拒否しました。
東京地裁は普通借家契約と判断
オーナーは、テナントに対して明け渡しを求める訴訟を提起しました。
しかし、令和2年3月18日の東京地方裁判所の判決では、定期借家契約として必要な事前説明の要件を満たしていないとして、定期借家契約としての効力が認められませんでした。
結果として、この契約は普通借家契約として扱われることになりました。
つまり、単に重要事項説明書を作成し、重要事項説明を行っていたというだけでは、定期借家契約の事前説明を行ったことにはならなかったということです。
控訴後は和解で解決
オーナー側は第一審の判決を不服として控訴し、最終的にはオーナーとテナントとの間で和解が成立しました。
和解では、オーナーが一定の和解金を支払うことに加え、テナント側が設置した内装や造作物などについても、原状回復せずに残置することなどが条件となりました。
オーナーからすれば、本来は定期借家契約として期間満了で終了することを前提としていたにもかかわらず、予想していなかった費用や負担が発生したことになります。
オーナーが宅建業者を提訴
オーナーは、宅建業の専門家である媒介業者へ、「定期借家契約で契約してください」と依頼していました。
それにもかかわらず、宅建業者が必要な手続きを行わなかったために、定期借家契約として認められず、テナントとの紛争や和解費用などが発生しました。
そこで、オーナーは媒介業者に対して損害賠償を求める訴訟を提起しました。
令和6年1月29日に示された判決では、宅建業者について、善管注意義務違反があり、債務不履行に該当すると判断されました。
つまり、不動産の専門家として定期借家契約の締結を依頼されていた以上、その契約が有効に成立するために必要な手続きを適切に行う義務があったということです。
そして、実際に宅建業者のミスによって生じた損害として認められる範囲について、賠償が命じられましたが、実際にオーナーが負担したとされる総額には及びませんでした。
書類1枚の漏れが大きな損害につながる
この一連の事例で重要なのは、事前説明に関する手続きの不備が、非常に大きな問題へ発展したという点です。
最初の裁判が令和2年、その後の宅建業者に対する判決が令和6年です。
オーナーは、長期間にわたって訴訟や紛争への対応を続けることになりました。
定期借家契約では、「契約書に定期借家契約と書いてあるから大丈夫」というわけではありません。
必要な書面を交付し、必要な説明を適切に行っているかが非常に重要です。
原則は事前説明書を確認する
オーナーが不動産会社へ定期借家契約を依頼する場合には、まず、契約書類の中に定期借家契約の事前説明書が含まれているかを確認する必要があります。
特に、普段あまり定期借家契約を取り扱っていない不動産会社へ依頼する場合には注意が必要です。
定期借家契約を日常的に扱っている会社であっても、独立した書類だと作成漏れや説明漏れが起こる可能性があります。
一定の要件を満たせば重要事項説明書で兼ねられる
一方で、一定の要件を満たすことにより、独立した事前説明書を作成せず、重要事項説明書にその役割を持たせる方法があります。
それは、以下の通達の2ページ目以降に明記されています。
定期建物賃貸借に掛る事前説明におけるITの活用等について
参考に、通達のPDFデータを確認できる直接のURLも紹介しておきます。
chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.retio.or.jp/wp-content/uploads/2024/11/2018_03.pdf
※こちらのURLをコピー&ペイストして検索してください。
重要なのは、単に重要事項説明書に「定期借家契約です」と記載するだけでは足りないという点です。
重要事項説明書には、少なくとも次の内容を明確に盛り込む必要があります。
①契約期間満了によって終了すること
まず、この契約が定期借家契約であり、契約の更新がなく、期間満了によって契約が終了することを明確に記載します。
借主が、「通常の賃貸借契約と同じように更新できる」と誤解しないようにするためです。
②重要事項説明書が事前説明書を兼ねること
次に、この重要事項説明書そのものが、定期借家契約に必要な事前説明書を兼ねていることを記載します。
つまり、「書面を兼ねている」ことを明確にします。
③重要事項説明が事前説明を兼ねること
さらに、重要事項説明の際に行う説明そのものが、定期借家契約に必要な事前説明を兼ねていることも明記します。
つまり、
②重要事項説明書が事前説明書を兼ねる
③重要事項説明が事前説明を兼ねる
という「書面」と「説明」の両方について明確にしておくことが重要です。
書式そのものを変更してミスを防ぐ
当社では、事前説明の漏れを防ぐため、重要事項説明書の書式自体に、定期借家契約に必要な内容をあらかじめ組み込んでいます。
この方法であれば、契約のたびに、「今回は事前説明書を別に作成しなければならない」と判断する必要がなくなります。
定期借家契約用の重要事項説明書を使用すれば、その中に必要な内容が最初から記載されているため、書類の作成漏れや説明漏れを防ぐことができます。
定期借家契約を継続的に取り扱う不動産会社であれば、担当者の注意力だけに頼るのではなく、書式や契約手続きそのものを仕組み化することが重要だと考えています。
オーナーが定期借家契約を依頼するときの確認事項
定期借家契約で入居者を募集するオーナーは、不動産会社へ依頼する際に、次の点を確認しておくと安心です。
・定期借家契約の取り扱い実績があるか
・定期借家契約の成立要件を即答できるか
※契約書への明記と事前説明(または通達の対応)
・定期借家契約を終了させる場合の要件を即答できるか
※契約満了の6か月前から1年前までに終了通知を行う
「定期借家契約で募集してください」と依頼するだけでなく、実際に要件を満たして対応できるか確認することが重要です。
まとめ|重要事項説明書だけでよいのは一定の要件を満たした場合
定期借家契約では、原則として、契約締結前に定期借家契約であることについての事前説明を行い、そのための書面を交付する必要があります。
重要事項説明を行ったからといって、それだけで当然に定期借家契約の事前説明を行ったことになるわけではありません。
実際に、事前説明が適切に行われなかったことから、定期借家契約としての効力が認められず、普通借家契約として扱われた裁判例を紹介しました。
一方で、一定の要件を満たした重要事項説明書を使用し、
契約に更新がなく期間満了で終了すること
重要事項説明書が事前説明書を兼ねること
重要事項説明が事前説明を兼ねること
を明確にしたうえで適切に説明すれば、重要事項説明書と定期借家契約の事前説明書を一本化することができます。
定期借家契約では、書類や説明のわずかな不備が、将来の明け渡しや損害賠償をめぐる大きな問題につながる可能性があります。
オーナーはもちろん、不動産会社や管理会社にとっても、担当者の注意だけに頼るのではなく、必要な手続きが漏れない書式と運用をあらかじめ整えておくことが重要です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。


