今回は、目黒区内にある1棟アパートの建て替えに伴い、立ち退き交渉を行った事例をご紹介します。
立ち退き交渉は、賃貸経営の中でも頻繁に発生するものではありません。
しかし、老朽化したアパートやマンションの建て替えを検討する際には避けて通れない問題です。
今回は、実際にどのような流れで進めたのか、特に印象に残っている長期入居者との交渉事例を中心にご紹介します。
本記事は、当社YouTubeチャンネルで公開している
「建て替えによる立退き交渉~目黒区一棟アパート~」
という動画の内容を、文字で整理したものです。
建て替えを希望したが、既存の管理会社では対応不可だった
ご相談いただいた当時、建物は大手企業のグループに属する不動産会社に管理を依頼していました。
しかし、建て替えのため立ち退き交渉について相談したところ、
「交渉はご自身で行ってください」
という回答だったそうです。
立ち退き交渉は、報酬を受け取って代理交渉を行うことは弁護士以外には認められていません。
非弁行為の問題もあるため、大手企業ほど慎重になりやすい傾向があります。
そこで、
「地元で小回りの利く管理会社に相談したい」
ということで、ご依頼をいただきました。
長年入居している方ほど家財の問題が大きい
特に気になっていたのが長期入居されている方でした。
以前はご夫婦で暮らしていましたが、現在はお一人暮らしになっており、家財も多いことが予想されました。
長年住まわれている方ほど、
家財の整理が大変
引っ越し自体に不安がある
精神的な負担が大きい
というケースが少なくありません。
そこで事前にオーナー様と相談し、不要な家財は残置してもらい、オーナー側で処分する、という方向で内諾を得ました。
基本的な立退料の考え方
立退料については、裁判になると賃料の何十か月分というケースもあります。
しかし、できる限り円満に解決するため、弊社では基本的に次のような内容をご提案することが多くなっています。
・新居の契約費用
・新居を借りる際に必要になる諸費用
※例:礼金、仲介手数料、保証会社費用、火災保険料などを含めた契約金相当額
・引っ越し費用の実費
・敷金の全額返還
オーナー様も、
「それで納得していただけるのであれば十分です」
と理解を示してくださいました。
相手から出た要望は、その場で即答しない
交渉の中で、想定通り「家財の整理が大変」という話が出てきました。
しかし、その場で「大丈夫ですよ」とは言わず、「一度オーナー様と相談し、改めてご回答します」とお伝えしました。これは非常に重要です。
すぐ了承すると、「もっとお願いできるかもしれない」という心理が働きやすくなります。
一方、検討した結果として回答すると、「こちらの要望を聞いてくれた」という感覚になり、追加要求が出にくくなる傾向があります。
実家へ戻る場合も、引っ越し費用相当額を支払う
交渉の中で、「実家に戻るかもしれない」という話も出ました。
そこで、
とお伝えしました。
ここで重要なのは、「引っ越すかどうか」ではなく、「どこへ引っ越すか」という話に意識を向けてもらうことです。
そうすることで、自然と引っ越しを前提とした話になり、交渉が進みやすくなります。
合意したら速やかに合意書を締結する
意後は速やかに合意書を作成します。内容はA4用紙を1~2枚程度です。
参考として、合意書の内容を紹介します。
建物の表示
所在地 〇〇
名称 〇〇
部屋番号 〇〇
第1条(本物件の明け渡し)
1 乙は、令和〇年〇月〇日までに、本物件を明け渡す。ただし、乙が明け渡し期日に間に合わない事情が生じた場合には、乙は、速やかに甲に相談し、甲乙協議の上、明け渡し期日を定めるものとする。
2 明け渡しは、甲乙立会いのもとで本物件内の確認を行い、本物件の鍵の返還をもって明け渡しの完了とする。ただし、甲は前記の立会いを甲の指定する者に代行を依頼することができる。
第2条(甲が負担する費用)
1 甲は、乙の明け渡しに伴い、以下の費用(以下、「甲負担分」という。)を全額負担し、乙に支払う。
一 引越代金(見積書または領収書等に基づく実費)。
二 転居先が賃貸不動産の場合は、賃貸借契約に要する礼金、仲介手数料、保証委託料及びその他の諸費用(敷金、賃料及び毎月または毎年等の定期的に発生する費用は除く)。
三 転居先が賃貸不動産でない場合は、〇〇円(本物件の賃料の3か月相当分)。
2 前項の一及び二に基づく甲負担分の支払時期及び方法は、乙からの見積書または明細が提出され、甲が受領した日から7日以内に乙の指定口座への振込とする。
3 第1項の三に基づく甲負担分の支払時期及び方法は、明け渡しの完了した日から7日以内とする。
第3条(敷金の返還)
1 甲は、乙に対し、本契約締結時に受領した敷金〇〇円を全額返還する。
2 返還時期は、明け渡し完了日から7日以内とする。ただし、乙が希望した場合かつ乙が賃貸不動産に転居する場合は、転居先の契約金の明細に記載された敷金相当額を前条1項の二の甲負担分と合算して返還する。
第4条(原状回復)
1 乙は、本物件に対する原状回復義務を負わない。ただし、明け渡し時点での著しい損傷がある場合は、甲乙協議の上で対応を定める。
2 乙は、本物件の明け渡しの時点で本物件内に残置した動産その他の物品(以下、「残置物」という。)について、その所有権を放棄し、甲は、自らの負担で残置物を処分する。ただし、生ごみ及び通常の家庭ごみ回収で処分可能なごみは予め乙が処分する。
第5条(清算)
本合意書に基づく金銭の支払をもって、本契約に関する甲乙間の一切の債権債務は清算されたものとする。
第6条(協議)
甲乙は、本書に定めがない事項及び本書の条項の解釈について疑義が生じた場合は、民法その他の法令及び慣行に従い、誠意をもって協議し、解決するものとする。
以上のとおり、甲乙が合意した証として本書1通を作成し、双方署名捺印の上、甲が原本、乙がその写しを保有する。
立ち退きが無事完了
結果として、この長期入居者の方も円満に合意していただき、予定通り明渡しが完了しました。
他の世帯についても大きなトラブルはなく、立ち退きが完了し、建て替え計画を進めることができました。
まとめ|立ち退き交渉は低姿勢と事前準備が重要
立ち退き交渉というと、強引な交渉をイメージされる方もいらっしゃいます。
しかし実際には、
相手の事情をよく聞く
無理に押し切らない
できるだけ低姿勢で進める
事前準備をしっかり行う
合意した内容は書面に残すことが大切です。
建て替えや老朽アパートの再生を検討されているオーナー様にとって、今回の事例が少しでも参考になれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。


