賃貸経営を行っていると、
・誰のものか分からない自転車が何台も放置されている…
・夜逃げされてしまい、家財を早く撤去して募集したい…
・何か月も家賃滞納しているので出て行ってもらいたい…
といった、大家さんにとっては大きなストレスを抱えるトラブルが発生するケースがあります。
中には、「もう自転車は処分しよう!」「家財を処分して募集しよう!」「勝手に鍵を交換して家賃を払うまで入れないようにしてしまおう!」と対策を考える大家さんもいると思います。
やるかどうかは別にして、そうやって解決してしまいたいと考える大家さんは少なくないと思います。
しかし、そのように解決してしまうと「自力救済(じりききゅうさい)禁止の原則」に違反してしまい、大家さんが不利になってしまうことになります。
今回は「自力救済」について解説します。
自力救済禁止の原則とは?
「自力救済」とは、民法に規定されている訳ではないのですが、これまでの判例や法律の観点から存在する概念で、Wikipediaでは以下のように紹介されています。
そして、日本では「自力救済禁止の原則」という概念があり、「自力救済」を禁止しています。
つまり、法治国家である日本では、自分の権利を守るためには法律に則って対処してくださいということです。
賃貸業界における「自力救済」とは?
では、賃貸業界における「自力救済」とはどのような行為に当たるのでしょうか?
それは冒頭で紹介した事例が、まさによくある事例となります。
所有者不明の自転車を勝手に処分する
所有者が不明であったとしても、その自転車は必ず「誰かの物(所有権は誰かにある)」です。
少なくとも大家さんは所有者ではないので、物件の管理のために他人の所有物を勝手に処分することは、自力救済に該当しますので禁止されています。
不法駐輪されている自転車の対処方法についてはこちらの記事で解説しています。
賃貸管理で「放置自転車」に困ったときは?
夜逃げした部屋の家財を勝手に処分する
夜逃げした部屋の家財も、自転車と同じように必ず「誰かの物(所有権は誰かにある)」です。
それは、夜逃げでなく借主が死亡した場合も家財は相続の対象となりますので、遺産分割協議が終わるまでは相続人の共有財産となります。
夜逃げで全く連絡が取れない場合、借主が死亡して相続人がいない場合は、「不在者財産管理人」や「相続財産管理人」を選任して処理していく必要があります。
滞納者の部屋の鍵を勝手に交換する
賃貸借契約書に「3か月以上滞納したら契約解除」のような記載があったとしても、3か月以上滞納したらすぐに契約解除になるかと言えば、そうではありません。
契約解除の意思表示を行う必要があり、借主自身に退去してもらう必要があります。
もし借主が反抗して「俺は居座るからな!」と反発された場合は、調停や裁判によって契約解除と退去を認めさせ、自主的に明け渡してもらわなければいけません。
それでも退去しない場合は、強制執行によって、やはり法律に則って対処する必要があり、大家さんが鍵を勝手に交換してしまうと「自力救済」に該当してしまいます。
不安な場合は弁護士に相談を!
重要なことは、「自力救済」という概念があるということを知ることです。
そして、自力救済に該当しそうな状況の場合は、弁護士に相談することが重要です。
ちなみに、「自力救済禁止の原則」を知っている不動産業者は残念ながら少ないのが実情で、知っていても最終的には大家さんの責任になるので、無責任に「大丈夫ですよ!」とアドバイスしてしまうことがあります。
弁護士に相談するには、いくつかの方法があります。
①不動産業者の顧問弁護士に相談する
不動産業者には顧問弁護士がいることが多いため、不動産業者を通せば大家さんには負担なく相談に乗ってもらえることが多いです。
②弁護士事務所の無料相談を受ける
弁護士事務所では、初回は1時間無料で相談に乗ってくれるケースが多々ありますので、問い合わせてみるもの一考です。
その場合は、不動産関連に長けていることを強調している弁護士を選ぶようにしましょう。
③法テラスに行って相談する
国が設立した法的トラブル解決の総合案内所が「法テラス」です。
こちらでは無料で法律相談を行っています。
④弁護士会の法律相談センターで電話相談する
各都道府県には弁護士が所属する弁護士会があり、法律相談センターを運営しています。
東京都の法律相談センターでは15分程度、弁護士が無料で法律に関する相談に乗ってくれます。
⑤弁護士事務所にタイムチャージで相談する
弁護士事務所では上記②のように初回は無料相談を受け付けていることが多々ありますが、2回目以降は有料となり、初回から有料というケースもあります。
1時間1万円(税別)くらいが相談料の相場となります。
簡単なケースではどの弁護士も見解が同じになりますが、少し複雑になってくると弁護士によって見解が異なるケースがあります。
不動産業界は特殊な業界でもありますので、不動産関連の相談は不動産に長けている弁護士に相談をすることを推奨していますので、もし不動産業者の顧問弁護士またはいつもお付き合いしている弁護士がいない場合は、ご自身で見つけることを推奨しています。
大家さんに大事なのは未然防止!
今回は「自力救済」について解説しましたが、私は一貫して「未然防止」が最も重要だとお伝えしてきました。
例えば、不法駐輪の多い物件では、元々退去した人が置いて行った自転車やボロボロの自転車が置かれているケースが多いです。
入居者の自転車はステッカーの貼り付けや定期的な点検で管理しておけば、不法駐輪者が放置されることはほとんどありません。
夜逃げや家賃滞納による立退きも、家賃保証会社に加入してもらっていれば家賃保証会社が費用を負担して対処してくれることがほとんどです。
家賃保証会社についてはこちらの記事で解説しています。
「家賃債務保証業者の提供する保証」と「協議」
ちなみに、大家さんから「3か月家賃を滞納したら鍵を交換しても良い」という主旨の特約を入れたいと要望をいただくケースもありますが、特約を定めても無効と判断されるため効果はありません。
大家さんは不動産業者と協力して最大限「未然防止」に努め、万が一の事態が発生したら弁護士の協力も得ながら適切な対応を行っていきましょう。
ご愛読いただきありがとうございました。