供託の対応(約款解説)

最新更新日 2023年12月28日
執筆:宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士 三好 貴大

前回は「約款解説:賃料」ということで、国土交通省のホームページで掲載されている「賃貸住宅標準契約書」を例として、冒頭の第四条の解説を行いました。

主に、前回お伝えした「賃料」に関する条文は賃料改定に関するものですが、もし賃料の増減額請求が協議(話し合い)だけでは解決に至らなかった場合、「供託」が発生する可能性があります。

今回は供託の基礎と、登場する場面と対策をお伝え致します。

 

 

「供託」とは

法務省のホームページには以下のように解説されています。

供託とは,金銭,有価証券などを国家機関である供託所に提出して,その管理を委ね,最終的には供託所がその財産をある人に取得させることによって,一定の法律上の目的を達成しようとするために設けられている制度です。

 

賃貸経営に当てはめて簡単に言うと、「賃料を預かってくれる制度」です。なぜ、そのような制度が存在するのでしょうか?

私が携わったケースを例にしてお伝えします。

 

【実例:貸主が不特定】

ある借地に賃貸アパートを建てている家主がいました。その借地を所有していた地主は毎月地代を回収しにきていましたが、パッタリ来なくなり、それ以降地代の請求が来ませんでした。

数か月経ち、様子がおかしいと思い調べてみると、その地主さんは高齢で亡くなっていました。相続人が複数いて、中には海外に行って行方不明になった人もいるため、遺産分割協議(※)が出来ないまま、相続人代表者も決まっていませんでした。

※遺産分割協議・・・相続が発生し、相続財産(遺産)を誰にどのくらい相続(分割)させるかを決めるための協議

 

家主としては、誰に地代を払えばいいか分からないので、とりあえず払わずに地代を保管していたのですが、地代を払っていないということは「滞納状態」になっています。後日、地代の滞納によって万が一トラブルが発生するのが怖いため、どうしたらいいか?と相談を受けました。

私は「供託」を提案し、家主は法務局へ行って供託をしたことで、滞納状態は回避できました。

 

 

「供託」の効果

上記の例のように、「誰に払っていいか分からない。でも、払わないと滞納になってしまう。」といった場合に、地代(賃料)を供託することによって、貸主に賃料を払ったことと同じ状況になり、滞納状態とはなりません。

供託された賃料は受領する権利を持っている人(相続人など)が法務局に払渡請求(還付請求)を行うことで受領することができます

 

 

「供託」の運用

ここで重要なことは、「滞納状態にならない」ということです。その性質を利用して、賃料増減額の紛争ではよく登場します。

例えば、貸主から賃料の増額を請求しましたが、借主が承諾しない場合、「承諾してないから賃料を払わない!」だと滞納になってしまいます。そこで、借主が妥当だと思う賃料(現行賃料など)を供託することで、滞納とはみなされなくなります。

借主からの減額請求も同様で、貸主が減額に応じてもらえない場合、借主が妥当だと思う減額後の賃料を供託するという手段もあります。

 

ちなみに民法上では、賃料の増減額請求で協議が成立しない場合、借主は妥当だと思う賃料を支払う(または供託)すれば良いことになっています。そして、協議が成立したとき、借主が支払ってきた賃料と協議で成立した賃料に差額がある場合は、その差額分を清算します。(差額の清算には利息が発生します)

 

 

「供託」されてしまったら

供託をされた場合、まずは法務局から「供託通知書」が届きます。必要書類を法務局に提出することで供託金を受け取ることができますが、

 

「供託金を受け取ったら、その賃料を認めたことになる?」

という疑問が湧きます。答えは、受け取ったことだけでその賃料を適正と認めたことにはなりません。

 

しかし、払渡請求して供託金を受け取り続けて、他に何ら行動しなかった場合は「適正と認めている」と黙認される可能性があります。賃料の払渡請求を行う場合、借主に書面で差額分の請求を行っておくことを推奨しています。なぜなら、適正と認めていない証拠を残すことができるからです。

 

 

このように、「供託」はされる側にとって面倒な制度です。もし、ローン返済もある場合は、供託金を受け取らないと返済できない状況も多々あると思います。供託を避けるには、借主との良好な関係性や誠意と借主の感情・状況に配慮した対応が必要となります。

ご愛読いただきありがとうございました。

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