前回は「約款解説:使用目的」ということで、国土交通省のホームページで掲載されている「賃貸住宅標準契約書」を例として、冒頭の第三条の解説を行いました。
不動産業者でも契約約款に記載されている一文がどのような意味で、そのような場面のトラブルを抑止するために記載され、どのような場面で用いられるのかを理解していないケースが非常に多いため、実務をイメージして第四条の解説を行います。
第4条(賃料)
乙は、頭書(3)の記載に従い、賃料を甲に支払わなければならない。
2 1か月に満たない期間の賃料は、1か月を30 日として日割計算した額とする。
3 甲及び乙は、次の各号の一に該当する場合には、協議の上、賃料を改定することができる。
一 土地又は建物に対する租税その他の負担の増減により賃料が不相当となった場合
二 土地又は建物の価格の上昇又は低下その他の経済事情の変動により賃料が不相当となった場合
三 近傍同種の建物の賃料に比較して賃料が不相当となった場合
家主様としては当たり前のことですが、月の途中で賃料発生した場合や月の途中で解約した場合、賃料は日割り計算となります。ここで重要なことは、国土交通省が公開する契約約款には「1か月を30日として日割計算」と記載があることです。
つまり、その月が2月のように28日まででも、31日まででも、一律30日に割って日割りの賃料を算出することになりますが、家主としては31日の場合は不利、28日の場合は有利となります。総賃料10万円で15日が賃料発生日の場合は5,000円も乖離が発生します。
私はどの月でも平等になるように、以下のようにカスタマイズしています。
実務上は更新時に賃料を改定することが多く見られますが、建前としては相当の理由があれば契約期間内にも賃料を改定することができることになっています。
時折、賃料の増減額について相談を受けることがあります。その際に「隣のマンションは●●円で成約したみたいなので、それぐらいが妥当なのではないですか?」といった「成約事例」をもとに相談されたり、不動産業者は成約事例を基に家主様へ賃料を提案したりするケースが散見されます。
例え話ですが、もし家主様から増額請求、または借主から減額請求し、話し合いでは決着がつかずに裁判となった場合、不動産鑑定士による鑑定評価が行われます。実は、その際には前記のように成約事例をもとにした「取引事例比較法(賃貸事例比較法)」は用いられません。
その際に用いられる主な鑑定手法は以下の3つで、それらを勘案して鑑定評価による適正賃料を査定します。
(1)差額配分法・・・新規募集の適正賃料と現在の賃料の間を取る手法
(2)利回り法・・・土地建物の価格と必要経費を利回り計算する手法
(3)スライド法・・・公示価格や様々な指標の変動率で計算する手法
これらは難解なので細かくお伝えはしませんが、ここで重要なことは、空室募集で設定する適正賃料と賃料改定で設定する適正賃料は異なるということです。前者を「新規賃料」、後者を「継続賃料」といいます。
「継続賃料」とは、これまでの経緯や契約内容、社会情勢などを考慮して算出しますので、近隣の賃貸募集で成約した事例に基づく賃料はあまり参考にならないため、取引事例比較法はあまり使用されないことを認識しておく必要があります。
租税とは、主に「固定資産税」のことです。例えば、近隣の都市開発や道路の拡張、用途地域の変更等によって路線価に変更が生じ、固定資産税が増額されることがあります。その場合、所有者の負担が増えてしまうため、その分賃料に反映させるための交渉材料となります。
インフレ(バブル経済など)やデフレ(物価の暴落など)によって賃料が不相応になってしまった場合のことを指します。
余談ですが、経済変動によって真っ先に影響を受けるのは「売買価格」で、次に「新規募集賃料」、最後に「継続賃料」となりますので、実際にバブル崩壊後に賃料が下落し始めたのは2~3年後からという見解が多数です。
一言でいうと「相場と比較」になります。例えば、近隣の賃貸マンションがいくつも年々賃料を増減しているといった場合、賃料に反映させるのは妥当と考えることができます。
今回は賃料の増減額を中心にお伝えしました。賃料の増減額請求は揉め事に発展する可能性がありますので、もし行うのであれば慎重に相手の心情を充分に配慮しながら進める必要があります。ちなみに、賃料増減額請求でよく出てくるものは「供託」です。次回は番外編として供託についてお伝えしたいと思います。
ご愛読いただきありがとうございました。
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