近年、日本国内に居住する外国籍の方が増え、賃貸物件でも外国籍の方から入居申込みを受ける機会が非常に多くなっています。
一方で、オーナーの中には、
「外国籍の方へ貸すことに少し不安がある」
「生活習慣の違いでトラブルにならないか心配だ」
と感じる方も少なくないのが実情です。
しかし、外国籍であることそのものを理由として入居を拒否したと判断された場合には、慰謝料請求の対象となってしまう可能性が高く、オーナー側に慰謝料の支払いが命じられた裁判例があります。
今回は、平成19年の京都地方裁判所の裁判例をもとに、外国籍の方から入居申込みを受けた際に、オーナーや管理会社がどのように対応すべきかについて解説します。
本記事は、当社YouTubeチャンネルで公開している
「外国籍を理由に入居拒否→裁判結果は?」
という動画の内容を、文字で整理したものです。
契約開始直前に入居を拒否した事例
今回の事例は法人契約でしたが、実際に入居する予定だった方は外国籍の方でした。
新築物件への入居申込みを受け、契約開始に向けて手続きが進められていました。
ところが、契約開始日の直前に提出された書類をオーナー側が確認したところ、実際の入居予定者が外国籍であることを把握しました。
その後、オーナー側から、「今回は入居させない」という判断が示され、最終的に訴訟へ発展しました。
オーナーは「外国籍であることを隠していた」と主張
裁判の中でオーナー側は、「入居予定者が外国籍であることを隠していた」という主張をしました。
しかし、裁判所は、入居予定者側が外国籍であることを意図的に隠していたと認めるだけの証拠はないと判断しました。
そして、それまで特に入居を拒否する事情がなかったにもかかわらず、オーナーが外国籍であることを認識した直後に入居拒否へ転じたという経緯などから、外国籍であることが拒否の理由だったと判断しました。
外国籍を理由とする入居拒否を不法行為と判断
裁判所は、この入居拒否について不法行為が成立すると判断しました。
その結果、オーナー側には、実際に入居する予定だった方に対して慰謝料100万円の支払いが命じられました。
さらに、訴訟に必要となった弁護士費用の一部として10万円についても損害として認められました。
この裁判例から分かる重要なポイントは、「まだ実際に入居していないのだから、オーナーが自由に断れる」とは限らないということです。
特に、契約に向けた手続きがかなり進み、入居直前の段階で国籍を理由として一方的に拒否すれば、大きなトラブルになる可能性があります。
入居審査は「国籍」ではなく「個人」を見る
外国籍の方から申込みを受けたときに、最も重要なのは、国籍によって一律に判断するのではなく、その申込者本人の状況を確認することだと思います。
実際に賃貸管理をしていると、外国籍の方でも非常に律儀で、長期間何のトラブルもなく住んでいただける方はたくさんいらっしゃいます。
一方、日本人だから必ずマナーが良いというわけでもありません。
そのため、
「外国籍だから問題が起きるだろう」
「日本人だから問題は起きないだろう」
という判断をするのではなく、申込者ごとに審査していくことが重要です。
外国籍の方の審査で確認できること
外国籍の方へ賃貸する場合でも、通常の入居審査と同様に、契約を適切に履行できる方なのかを確認していきます。
例えば、
・勤務先や収入、家賃の支払能力
・入居人数
・使用目的
・緊急連絡先
・保証会社の審査
・在留資格・在留期間
・就労制限の有無
などです。
法人契約であっても、実際に誰が入居するのかを確認することは重要です。
外国籍の方の場合には、本人確認や在留状況を確認するために、基本的に「在留カード」を提出してもらいます。
ただし、これは国籍を確認するためでなく、在留資格や期間、就労制限の有無を確認するためです。
生活習慣への不安は「具体的なルール」に置き換える
オーナーが外国籍の方への賃貸に不安を持つ背景には、生活習慣の違いに対する心配があることもあります。
例えば、
「入居者が勝手に増えてしまうのではないか」
「室内に強い臭いが付いてしまうのではないか」
「ゴミ出しのルールを守ってもらえないのではないか」
「騒音トラブルが起きるのではないか」
といった不安です。
しかし、このような問題は本来、国籍の問題ではなく、賃貸借契約上のルールの問題です。
そのため、「外国籍の方は不可」とするのではなく、
・入居者の追加には事前承諾が必要
・契約者以外の継続的な居住は禁止
・香辛料をはじめとする強臭の付着が予想されるものの使用を禁止
・ゴミ出しルールを遵守する
・騒音を発生させない
・禁煙物件では喫煙しない
といった形で、守ってもらいたい内容を具体的に説明します。
そして、「このルールを守っていただけますか」と確認したうえで契約する方が、実務上も合理的です。
入居を断るなら審査段階で判断する
今回の裁判例でもう一つ重要なのが、入居拒否のタイミングです。
契約開始日の直前になって突然、「やはり入居させません」と言われれば、相手方に大きな損害や混乱が生じます。
すでに、
・現在の住居を解約している
・引っ越しを手配している
・家具や家電を購入している
・勤務先などへ転居先を届け出ている
といった可能性もあります。
そのため、契約条件や審査上の確認事項があるのであれば、できる限り早い段階で確認し、判断することが重要です。
特に、「契約しましょう」と伝えた後で判断を覆すことは、国籍の問題に限らず、契約締結上の過失など別の法的問題へ発展する可能性もあります。
審査理由をどこまで説明するのか
入居審査の結果、契約を見送ること自体はあります。
その場合、「○○という理由で見送ります」と、細かな理由を相手方へ伝える必要はありません。
実務では、「総合的な審査の結果、今回は契約を見送らせていただくことになりました」などと回答することが一般的です。
ただし、表向きだけ「総合判断」として、実際には外国籍であることだけを理由に一律拒否するような運用をすれば安全という意味ではありません。
重要なのは、実際の審査そのものを国籍ではなく、個別具体的な事情に基づいて行うことです。
外国籍の入居者を受け入れる仕組みを整える
外国籍の方からの入居申込みは、今後さらに増えていく可能性があります。
そのため、「外国籍の方を受け入れるか、受け入れないか」という二択ではなく、「どうすれば安心して受け入れられる仕組みを作れるか」を考えることが重要になってくると思います。
例えば、
・入居ルールを分かりやすく説明する
・必要であれば多言語の案内を用意する
・入居人数を正確に確認する
・保証会社を利用する
・緊急連絡先を確保する
・在留状況を適切に確認する
・契約内容を十分理解してもらう
といった方法があります。
管理会社とオーナーが事前に審査基準や契約ルールを整理しておけば、外国籍の方だからという理由だけで拒否する必要も少なくなります。
まとめ|外国籍だけを理由にした入居拒否は避ける
今回ご紹介した京都地方裁判所の裁判例では、オーナーが外国籍であることを理由に入居を拒否したと判断され、不法行為として慰謝料100万円と弁護士費用の一部10万円の支払いが命じられました。
この裁判例からも、外国籍であることだけを理由として、一律に入居を拒否することには法的リスクがあることが分かります。
一方で、賃貸オーナーが入居審査を行ってはいけないということではありません。
重要なのは、
・国籍ではなく本人の支払能力や契約履行能力を見る
・在留資格や就労制限など必要な事項を確認する
・生活上の不安は具体的な契約ルールとして整理する
・判断すべき事項は契約直前ではなく審査段階で確認する
ということです。
外国籍の方だから貸す、貸さないという考え方ではなく、「この方と適切な賃貸借関係を継続できるか」という視点で、一人ひとりを審査することが重要です。
外国籍の入居希望者が増えている現在だからこそ、オーナーと管理会社が一緒になって、安心して受け入れられる審査・契約・管理の仕組みを整えていくことが、これからの賃貸経営ではより重要になると考えています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。


