賃貸経営の収支を改善するためには、賃料収入を増やすだけでなく、建物の維持管理にかかる経費を見直すことも重要です。
なかでも、エレベーターが設置されている建物では、エレベーターに関する費用を削減できる可能性があります。
エレベーターに関する代表的な経費削減方法としては、主に次の2つがあります。
1つ目は、エレベーターの保守契約を見直す方法です。
2つ目は、エレベーターの動力などに使用されている低圧電力契約の基本料金を見直す方法です。
今回は、このうちエレベーターの保守契約を見直し、毎月のランニングコストを削減する方法について解説します。
本記事は、当社YouTubeチャンネルで公開している
「エレベーター保守費用の削減」
という動画の内容を、文字で整理したものです。
エレベーターの保守契約は見直しの余地が大きい
エレベーターが設置されている建物のオーナーとお話ししていると、現在どのような保守契約を締結しているのか、詳しく把握されていないケースが少なくありません。
建物の新築時から同じ保守会社との契約を継続し、契約内容や料金をほとんど見直していないこともあります。
しかし、エレベーターの保守会社や契約形態を見直すことにより、年間で数十万円単位の経費を削減できる可能性があります。
まずは、エレベーターの保守会社と保守契約に、どのような種類があるのかを理解しておくことが重要です。
エレベーターの保守会社は大きく2種類に分けられる
エレベーターの保守会社は、大きく次の2種類に分けられます。
メーカー系のエレベーター保守会社
メーカー系の保守会社とは、エレベーターを製造しているメーカーまたはその系列会社が、設置後の点検や修理などを行う会社です。
建物にエレベーターを設置した際、そのエレベーターを製造したメーカーが、そのまま保守業務を担当するケースは多くあります。
メーカー系の保守会社には、自社製品に関する技術や情報を豊富に保有しているという安心感があります。
一方で、一般的には、保守料金が比較的高く設定されている傾向があります。
エレベーターの保守専門会社
保守専門会社とは、特定のエレベーターメーカーの系列に属さず、複数メーカーのエレベーターの点検や修理を取り扱う会社です。
一部の部品を自社で製造している会社もありますが、基本的にはエレベーターの保守管理を専門分野としています。
保守専門会社は、メーカー系の保守会社から契約を切り替えてもらうことで事業を拡大してきた会社が多いため、メーカー系と比べて保守料金が安いことが大きな特徴です。
ただし、料金だけでなく、緊急時の対応体制、営業所の場所、部品の供給体制、担当者の対応なども会社ごとに異なります。
エレベーターの保守契約は2種類ある
エレベーターの保守契約には、大きく分けて次の2つの契約形態があります。
フルメンテナンス契約
POG契約
どちらを選択するかによって、毎月の保守料金と、部品交換時の費用負担が大きく変わります。
フルメンテナンス契約とは
フルメンテナンス契約とは、定期点検だけでなく、一定範囲の部品交換や修理費用も毎月の保守料金に含まれている契約です。
毎月の保守料金は高くなる傾向がありますが、契約範囲内の部品交換や修理であれば、原則として追加費用を支払わずに対応してもらえます。
毎月一定額を支払うため、突発的な支出を抑えやすく、費用の予測を立てやすいことがメリットです。
ただし、「フルメンテナンス」という名称であっても、すべての修理や部品交換が契約料金に含まれているとは限りません。
契約書には、対象となる部品や修理と、契約対象外となる項目が定められています。
POG契約とは
POGとは、一般的に「Parts・Oil・Grease」の頭文字を取った名称です。
軽微な消耗部品の交換、オイルの補充、グリスの充填などは契約料金に含まれますが、それ以外の部品交換や修理については、別途費用が発生します。
POG契約は、フルメンテナンス契約に比べて、毎月の保守料金が安く設定されていることが一般的です。
一方で、契約範囲を超える修理や部品交換が必要になった場合には、その都度見積もりを取り、追加費用を支払う必要があります。
POG契約は本当に割高になるのか
契約内容だけを見ると、幅広い修理を契約料金内で対応してもらえるフルメンテナンス契約の方が、安心できるように思われるかもしれません。
しかし、実際にPOG契約でエレベーターを管理していると、高額な部品が頻繁に故障するわけではありません。
エレベーターは人命に関わる設備であるため、一定の安全性や耐久性を考慮して設計されています。
定期点検や法定検査の際に、保守会社から次のような提案を受けることはあります。
バッテリーが交換時期を過ぎている
部品の消耗が進んでいる
故障する前に部品を交換した方がよい
数年以内に交換が必要になる可能性がある
ただし、日常的に発生する交換費用は、数万円から十数万円程度に収まることも多く、毎年必ず発生するとは限りません。
フルメンテナンス契約とPOG契約の年間料金に大きな差がある場合には、部品交換費用を別途支払ったとしても、POG契約の方が総額を大幅に抑えられるケースは珍しくありません。
年間約82万円の保守費用を削減した事例
当社がある建物の管理を引き受けた際、エレベーターの保守契約を見直したことがあります。
その建物では、メーカー系の保守会社とフルメンテナンス契約を締結していました。
そこで、保守専門会社とのPOG契約へ切り替えました。
その結果、エレベーターの年間保守費用を約82万円削減できました。
仮に、毎年数万円から十数万円程度の部品交換費用が発生したとしても、年間約82万円の固定費を削減できれば、POG契約の方が年間の支出を抑えられる可能性があります。
この事例に限らず、保守会社や契約形態を変更することで、年間数十万円単位の費用を削減できるケースは珍しくありません。
フルメンテナンス契約でも対象外となる部品がある
フルメンテナンス契約を締結していれば、高額な部品交換もすべて追加費用なしで対応してもらえるとは限りません。
エレベーターには、動作を制御するための制御装置や基板などが使用されています。
これらの部品は、交換時に高額な費用がかかることがありますが、契約内容によってはフルメンテナンス契約の対象外となっている場合があります。
高額な部品が契約対象外であれば、フルメンテナンス契約を選択していても、交換時には別途費用を負担しなければなりません。
そのため、契約名称だけで判断するのではなく、どの部品や修理が契約に含まれ、どの項目が対象外なのかを確認する必要があります。
高額な部品交換も長期的な収支で判断する
別のマンションでエレベーターの基板を交換した際には、おおむね300万円程度の費用がかかりました。
300万円と聞くと、POG契約へ変更することに不安を感じるかもしれません。
しかし、年間約82万円を削減できる場合、単純計算では4年程度で300万円を超える金額を確保できます。
基板の耐用年数は20年が目安とされており、先ほどの例では20年で1,640万円の削減になりますので、基板交換300万円やその他ロープ交換などの大掛かりな工事で費用が発生しても、POG契約の方が圧倒的に安くなります。
しかし、これは状況次第でもありますので、毎月の保守費用を長期間にわたって高く支払い続けるのか、毎月の固定費を抑え、将来の部品交換費用を計画的に準備するのかを、総合的に検討する必要があります。
削減した費用を建物の価値向上に活用する
エレベーターの保守費用を削減できれば、その資金を別の修繕や空室対策に充てることもできます。
例えば、次のような工事です。
空室の室内リフォーム
共用廊下や階段の改修
外壁や屋上防水の修繕
防犯設備の導入
宅配ボックスなどの設備新設
エレベーターの固定費を抑え、建物の競争力を高める工事へ資金を振り向けることも、賃貸経営における重要な戦略となります。
一方で、将来、高額な部品交換が必要になった場合には、積立金や手元資金だけでなく、状況に応じて金融機関からの融資を利用する方法も考えられます。
保守専門会社へ変更する際の懸念点
保守会社をメーカー系から保守専門会社へ変更する場合、部品の供給や緊急時の対応について「部品の供給に問題はないのか」と不安を感じる方もいます。
メーカー系の保守会社は、自社製品の交換部品を豊富に保有しているというイメージがあります。
そのため、保守専門会社へ変更すると、必要な部品をすぐに用意できないのではないかと心配されることがあります。
しかし、主要な部品については、保守専門会社も在庫や調達ルートを確保しています。
少なくとも当社では、保守専門会社へ変更したことにより、部品の供給に困った経験はありません。
ただし、古い機種や特殊な機種については、部品の調達に時間がかかる可能性があります。契約を変更する前に、設置されている機種への対応実績や部品供給体制を確認しておくことが重要です。
メーカー系だから対応が速いとは限らない
メーカー系の大手保守会社の方が、緊急時の対応が速いと考える方もいます。
しかし、メーカー系の会社であっても、担当者や営業所の場所、地域の対応状況などにより、現地対応まで時間がかかることがあります。
点検によってエレベーターを停止する場合、本来であれば、点検日の1か月程度前、遅くとも2週間から3週間前には入居者へ周知することが望ましいと考えられます。
ところが、点検日の数日前になって、突然、停止のお知らせが掲示されるケースもあります。
また、不具合が発生して連絡しても、作業が混み合っており、すぐに来てもらえないこともあります。
一方で、保守専門会社は、料金だけでなく対応面でもメーカー系の会社を上回らなければ、契約を切り替えてもらうことが難しくなります。
そのため、連絡や現地対応が迅速な保守専門会社が多い印象があります。
会社の規模や知名度だけで判断せず、緊急時の受付体制、営業所から建物までの距離、過去の対応実績などを確認することが大切です。
POG契約による突発的な支出には積立で備える
POG契約へ変更した場合、毎月の保守料金は安くなりますが、部品交換が必要になった年には支出が増えます。
そのため、フルメンテナンス契約と比べて、キャッシュフローが不安定になると感じるかもしれません。
しかし、エレベーターの部品には、一定の交換時期の目安があります。
例えば、バッテリーや制御装置などについては、法令上の基準、メーカーの推奨時期、点検時の劣化状況などを基に、将来の交換時期を予測できます。
保守会社から長期修繕の見通しを確認し、次のような計画を立てることができます。
数年後に交換が必要となる部品
部品交換に必要な概算費用
毎月積み立てておく金額
突発的な故障に備える予備費
POG契約によって削減できた金額の一部を、エレベーター修繕費として毎月積み立てておけば、高額な部品交換にも備えやすくなります。
支出額を完全に一定にすることはできませんが、事前に修繕計画を立てることにより、突然の出費に対する不安を軽減できます。
まとめ|安心感と経費削減のどちらを重視するか
エレベーターの保守会社には、メーカー系の会社と保守専門会社があります。
また、保守契約には、一定範囲の部品交換費用が含まれるフルメンテナンス契約と、毎月の料金を抑えられるPOG契約があります。
どの会社や契約形態が最適なのかは、建物の築年数、エレベーターの機種、現在の契約内容、過去の修理履歴、オーナーの考え方によって異なります。
大手のメーカー系保守会社と契約していることによる安心感を重視する場合には、費用が高くても現在の契約を継続するという判断もあります。
一方で、毎月のキャッシュフローや経費削減を重視する場合には、保守専門会社とのPOG契約が有力な選択肢となります。
実際に、契約を見直したことで、年間約82万円の保守費用を削減できた事例もあります。
まずは現在の契約書、点検報告書、修理履歴を確認し、次のいずれが適しているのかを検討してみてください。
現在の保守会社と契約を継続する
現在の会社のまま契約形態を変更する
保守会社を変更してフルメンテナンス契約を継続する
保守専門会社とのPOG契約へ変更する
これまで何となく同じ契約を続けてきた場合には、一度見積もりを取り直すだけでも、現在の保守料金が適正かどうかを確認できます。
今回の内容が、エレベーターの保守契約と賃貸経営の経費を見直すきっかけになれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。


