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契約後に借主のタトゥーが判明した場合、鍵の引き渡しを拒否できる?東京地裁の裁判例を解説

最新更新日 2026年08月17日
執筆:宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士 三好 貴大

賃貸借契約を締結した後、借主の腕にタトゥーが入っていることが判明した場合、オーナーはそれを理由に鍵の引き渡しを拒むことができるのでしょうか。

結論から申し上げると、タトゥーが入っているという理由だけで、契約締結後に鍵の引き渡しを拒むことは、非常に難しいと考えられます。

正当な理由なく鍵を引き渡さなかった場合には、借主が支払った初期費用の返還だけでなく、引っ越しや家具の配送などに伴って発生した損害についても、賠償を求められる可能性があります。

今回の事例はタトゥーですが、言葉遣いが高圧的、許容範囲を超える不清潔など、オーナーとして入居してほしくないタイプは様々かと思います。

今回は、令和4年に東京地方裁判所で示された裁判例を基に、契約後にタトゥーが発覚した場合の事例と、それを防ぐためのポイントについて解説します。

本記事は、当社YouTubeチャンネルで公開している
「契約後にタトゥーを発見→鍵渡しを拒める?」
という動画の内容を、文字で整理したものです。

なお、私はタトゥーが入っていること自体に対する抵抗感がないことは申し添えておきます。(さすがに鬼や龍などは例外ですが…)

一方で、抵抗感を抱くオーナーが多いことも理解しています。

賃貸借契約後にタトゥーが判明した事例

今回の事例では、令和3年8月1日に賃貸借契約が締結されました。

契約開始日は同年9月1日で、この日から賃料が発生し、借主へ鍵を引き渡す予定でした。

ところが、契約締結後、借主にタトゥーが入っていることが判明しました。

そこで、8月28日に、オーナー、借主、仲介業者による面談が行われました。

その後、オーナー側は8月30日、借主に対して鍵を引き渡さないことを通知しました。そのため、契約開始日である9月1日になっても、借主は物件へ入居できませんでした。

さらにオーナー側は、賃貸借契約を解除すると通知するとともに、契約時の認識に錯誤があったとして、契約を取り消すという主張も行いました。

これに対し、借主がオーナーを相手として訴訟を提起しました。

オーナー側が行った主な主張

裁判では、オーナー側から複数の主張が行われました。

主な争点は、次の4点です。

・タトゥーを知らなかったことを理由に、錯誤による取消しができるか
・タトゥーが契約上の禁止事項に該当するか
・タトゥーのある入居者によって建物の価値が低下するか
・借主にタトゥーを申告する義務があったか

裁判所は、いずれの主張についても、オーナー側の主張を認めませんでした

タトゥーを理由とする錯誤取消しは認められなかった

オーナー側は、借主にタトゥーが入っていることを知らず、タトゥーがない人と契約したつもりだったため、契約時の認識に錯誤があったと主張しました。

しかし、契約を締結する前に、借主へタトゥーの有無を確認した形跡や、タトゥーのないことを契約条件として伝えた事情も確認できませんでした。

そのため、裁判所は、タトゥーが入っていることを知らなかったという理由による契約の取消しを認めませんでした

契約上の禁止事項にも該当しないと判断された

オーナー側は、借主にタトゥーが入っていることが、賃貸借契約上の禁止事項に該当するとも主張しました。

しかし、契約書には、タトゥーを禁止する具体的な条項がありませんでした。
そもそもその条項が有効なのかどうかは疑問がありますが。

一般的な賃貸借契約書には、反社会的勢力に該当する者との契約を禁止し、契約後に該当することが判明した場合には解除できるという条項が設けられています。

ただし、「タトゥーが入っている=反社会的勢力に該当する」ではありません。

今回の借主についても、反社会的勢力に該当すると認められる事情はありませんでした。

そのため、反社会的勢力に関する条項や、その他の禁止事項を理由として契約を解除することも認められませんでした

建物の価値低下や悪評にも合理的な根拠がなかった

オーナー側は、タトゥーが入っている人が居住すると、マンション全体の価値が低下したり、周辺で悪評が立ったりする可能性があるとも主張しました。

対象となった物件は、比較的賃料の高い物件だったようで、オーナー側としては、建物のイメージや他の入居者への影響を心配したものと考えられます。

しかし、タトゥーのある人が入居することによって、実際に建物の価値が低下することや、悪評が発生することを裏付ける合理的な根拠は示されませんでした

単にオーナーが不安を感じているというだけでは、締結済みの賃貸借契約を解除する理由にはなりにくいということです。

借主の告知義務違反も認められなかった

オーナー側は、タトゥーが入っているのであれば、借主は契約前に申告するべきだったとして、告知義務違反も主張しました。

しかし、タトゥーの有無を申告することは一般的ではありません

また、契約前にオーナーや仲介業者から質問されたにもかかわらず、借主が虚偽の回答をしたという事情もありませんでした。

さらに、8月28日に行われた面談で、借主は、オーナーがタトゥーに抵抗感を持っていることを知ったうえで、共用部分ではタトゥーが見えないように配慮すると説明していました。

例えば、上着を着用するなどして、他の居住者から見えないよう注意する姿勢を示していました。

借主には、タトゥーを積極的に隠し、契約後まで意図的に秘匿していたと評価されるような態度も認められませんでした

そのため、裁判所は、借主に告知義務違反があったというオーナー側の主張も認めませんでした

オーナーに初期費用などの返還と家具配送料の支払いが命じられた

最終的に裁判所は、オーナー側に対し、借主が支払った初期費用を返還するよう命じました

また、借主は新居で使用する家具などをすでに発注しており、その配送に関係して発生した費用についても、オーナー側が負担するよう命じられました。

賃貸借契約を締結したにもかかわらず、オーナーが鍵を引き渡さなかったため、借主は契約どおりに物件を使用できなかったことになります。

その結果、オーナー側が契約上の義務を果たさなかったことによって借主に生じた損害について、賠償責任が認められたものと考えられます。

鍵の引き渡し拒否で生じる可能性がある損害

今回の裁判で認められた費用以外にも、鍵の引き渡しを拒んだことで、借主にさまざまな損害が発生する可能性があります。

例えば、契約を締結した借主は、従前の住まいが賃貸物件であれば、すでに解約の手続きを進めていることが一般的です。

その解約を取り消したり、退去日を延期したりできれば良いですが、それができない場合は、次のような費用が発生する可能性があります。

・ 一時的に宿泊するホテルの費用
・ 荷物を保管するトランクルームの費用
・ 引っ越しの日程変更やキャンセルに伴う費用
・ 家具や家電の配送先変更費用
・ 新しい住居を探し直すための交通費など

これらの費用が、鍵の引き渡しを拒んだことと相当な因果関係のある損害と判断されれば、オーナーが賠償を求められる可能性があります。

契約締結後に一方的に鍵の引き渡しを拒むことには、大きなリスクがあります

内見立会で申込者と直接話してもらう

申込者がどのような人なのかを確認する一つの方法として、募集を担当する不動産会社が内見に立ち会うことが挙げられます。

多くの空室募集では、現地にキーボックスを設置し、他社の不動産会社に自由に内見してもらう方法が採用されています。

この方法は内見を受け付けやすい一方で、募集を担当する会社が申込者と一度も会わないまま、入居申込みや契約手続きが進むことがほとんどです。

募集会社が内見に立ち会えば、タトゥーの有無や言葉遣い、清潔感などを直接確認できます

確認すべき事情があれば、申込を受理した段階でオーナーへ報告し、契約するかどうかを検討できます。

反社会的勢力の確認方法

反社会的勢力に該当しないかどうかは、不動産会社が加盟する団体通じて、照会を行うことができます

また、インターネットで「氏名」を検索する、氏名に加えて「事件」「事故」などと入れて検索するなどすれば、様々な情報が見つかり場合があります。
ただし、同姓同名の別人であったり、内容が古かったり、真偽を確認できなかったりすることもあります

まとめ|タトゥーだけを理由に鍵の引き渡しを拒むことは難しい

賃貸借契約を締結した後に、借主にタトゥーが入っていることが判明しても、それだけを理由として鍵の引き渡しを拒むことは、非常に難しいと考えられます。

これは、言葉遣いや清潔感でも同様となります。

今回の裁判例では、次の事情などから、オーナーによる契約の取消しや解除は認められませんでした。

・ 契約書にタトゥーを禁止する条項がなかった
・ 契約前にタトゥーの有無を確認していなかった
・ 借主は反社会的勢力に該当していなかった
・ 建物の価値低下や悪評について合理的な根拠がなかった
・ 借主に積極的な秘匿行為が認められなかった
・ 借主が共用部分で見えないよう配慮する姿勢を示していた

契約後に鍵を引き渡さなければ、初期費用の返還に加え、引っ越し、宿泊、家具の配送などに関する損害を賠償しなければならない可能性があります。

入居者について確認したい事情がある場合には、契約締結後ではなく、入居申込みや審査の段階で確認することが重要です。

契約が成立した後になって大きなトラブルへ発展しないよう、内見は立ち会ってもらうよう依頼し、未然防止に努めましょう

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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