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賃貸物件のオーナー・借主の修繕費負担区分と原状回復ガイドラインの基本

最新更新日 2026年07月17日
執筆:宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士 三好 貴大

賃貸物件の退去時には、壁紙の汚れ、床の傷、設備の破損などが見つかることがあります。その際、オーナーは「できるだけ借主に負担してもらいたい」と考え、借主は「自分の負担をできるだけ減らしたい」と考えるため、双方の利害が対立しやすくなります。

こうした原状回復トラブルを防ぐため、国土交通省は「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を公表しています。

また、東京都では、いわゆる「東京ルール」と呼ばれる「賃貸住宅紛争防止条例」があり、不動産会社が仲介する賃貸借契約では、契約前に原状回復や修繕の負担について説明することが義務付けられています。

今回は、原状回復ガイドラインの中から、賃貸オーナーや管理会社が押さえておきたい基本を解説します。

本記事は、当社YouTubeチャンネルで公開している
「知っておきたい「原状回復ガイドライン」
という動画の内容を、文字で整理したものです。

原状回復とは入居前の状態に戻すことではない

原状回復という言葉から、借主が退去する際に、室内を入居前とまったく同じ状態へ戻すことだと考える方もいます。

しかし、原状回復は、必ずしも入居時の状態へ完全に戻すことを意味するものではありません。

建物や設備は、普通に使用していても時間の経過とともに劣化します。そのため、経年劣化や通常の使用によって生じた損耗まで、すべて借主に負担させることはできません。

原状回復では、次のように考えるのが基本です。

経年劣化や通常損耗はオーナーの負担
借主の故意・過失や不適切な使用による損傷は借主の負担

まずは、この原則を理解することが重要です。

オーナーが負担する経年劣化と通常損耗

経年劣化とは、時間の経過によって建物や設備の価値が自然に低下することです。

例えば、新品のエアコンや給湯器、壁紙、床材なども、使用年数が長くなるにつれて徐々に古くなります。

借主が丁寧に使用していても避けられない劣化については、原則としてオーナーが負担します。

通常損耗とは

通常損耗とは、通常の生活を送る中で自然に発生する傷みや汚れです。

例えば、次のようなものが該当する可能性があります。

家具を設置したことによる床やカーペットのへこみ
日照による壁紙や床の変色
電化製品を設置した壁の黒ずみ
通常の清掃をしていても発生する軽微な汚れ
画鋲を使用したことによる小さな穴

こうした通常の生活で避けられない損耗は、原則として家賃に含まれていると考えられています。

そのため、退去時にまとめて借主へ請求することは、基本的にはできません。

借主に原状回復費用を請求できるケース

通常の使用であれば緩やかに劣化するはずだったものが、借主の行為によって急激に悪化した場合、その差額部分については借主へ請求できる可能性があります。

借主の負担となる代表的な原因は、次のとおりです。

①故意による破損・汚損

借主がわざと設備や内装を壊した場合は、借主の負担となります。

例えば、壁や扉を故意に蹴って破損させた場合や、故意に落書きをした場合などです。

②過失による破損・汚損

不注意によって室内を壊した場合も、借主の負担になる可能性があります。

例えば、物を落として床を大きく傷つけた場合や、飲み物をこぼしたまま放置してシミを発生させた場合などです。

③通常の使用方法に反する使用

通常では想定されない使用方法によって破損や汚損を発生させた場合も、借主の負担になります。

例えば、室内設備を本来の目的と異なる方法で使用し、故障させた場合などが考えられます。

④善管注意義務違反とは

原状回復を考える上で重要な言葉に、「善管注意義務」があります。

善管注意義務とは、「善良な管理者として注意をもって物件を使用・管理する義務」を意味します。

賃貸物件の所有者はオーナーですが、賃貸期間中、室内を日常的に確認し、管理できるのは基本的に借主です。

そのため、借主には、異常を発見した場合に放置せず、速やかにオーナーや管理会社へ連絡することが求められます。

漏水を放置した場合

善管注意義務違反の代表例が、漏水の放置です。

例えば、次のような漏水が発生したとします。

エアコンからの水漏れ
上階からの漏水
雨漏り
給排水設備からの漏水

漏水自体が建物や設備の不具合によるものであれば、その原因について借主に責任があるとは限りません。

しかし、借主が水漏れに気付いていたにもかかわらず、何か月も連絡せずに放置し、床の腐食やカビの拡大を招いた場合は、この二次被害について借主の責任となります。

漏水が発生した時点ですぐに連絡していれば、床が腐るほどの被害にはならなかったと考えられるためです。

原則と異なる特約を設けることは可能

原状回復では、経年劣化や通常損耗はオーナーの負担となるのが原則です。

一方で、賃貸借契約書に特約を設け、一定の費用を借主負担とすることもあります。

ただし、契約書に書いてあれば、どのような内容でも有効になるわけではありません。

借主に通常より重い負担を課す特約を有効にするためには、一般的に次の点が重要になります。

①特約に必要性があること

実際に必要のない費用まで借主に負担させる特約は、認められません。

例えば、室内がきれいな状態であっても、退去するたびに必ず壁紙を全面張り替え、その全額を借主に負担させるという内容は、必要性が問題になります。

②負担内容が暴利的でないこと

借主の負担が著しく過大な内容も問題になります。

例えば、壁紙に画鋲の穴を一つ開けただけで、部屋全体の壁紙張り替え費用を負担させる内容は、過大な負担と判断される可能性があります。

③借主が内容を理解して合意していること

特約の内容が明確に記載され、借主がその負担について理解した上で合意していることも重要です。

裁判例では、口頭でも明確に合意している場合は特約が有効となりますが、立証が困難なので書面で明確に記録を残すことが重要です。

また、単に契約書の中に分かりづらく記載するのではなく、金額や負担範囲を具体的に示して説明することが、トラブル防止につながります。

特約の代表例

では、特約にはどのようなものがあるのでしょうか。
代表的な特約を紹介します。

①退去時のルームクリーニング費用

退去時のクリーニング費用は、当然に借主負担になると思われがちですが、原則としてはオーナーの負担です。

通常の生活によって室内が徐々に汚れることは、通常損耗に該当するためです。

そこで実務上は、賃貸借契約書に特約を設け、退去時のルームクリーニング費用を借主負担とするケースが多くなっています。

エアコンクリーニングを明記する

契約書に、「退去時のルームクリーニング費用は借主の負担とする」とだけ記載した場合、エアコンクリーニング費用が含まれるのかをめぐってトラブルになることがあります。

そのため、例えば次のように、負担範囲を明確にすることが重要です。

「退去時の室内清掃費用およびエアコンその他設備機器のクリーニング費用は、借主の負担とする。」

ちなみに、特約としては有効ですが、金額を明記していないことで裁判になった例もありますので、参考の単価や算定方法についても記載しておくとトラブルを回避できます。

ペットを起因とする汚損

一般的な賃貸住宅は、ペットの飼育を前提としていません。

ペット飼育を認める場合には、犬や猫による床・壁・建具の傷、臭気の付着などについて、借主負担とする特約を設けることがあります。

例えば、次のような損傷です。

猫が壁や柱を引っかいた傷
犬の爪によるフローリングの傷
建具を噛んだことによる破損
尿や体臭などによる臭気の付着

ペット可物件では、どこまでを借主負担とするのかを、契約時に具体的に説明しておくことが重要です。

タバコによるヤニ汚れや臭い

室内での喫煙によって、壁紙にヤニや臭いが付着した場合も、通常損耗を超えるものとして、特約を定めることで借主負担となります。

ただし、紙巻きタバコ、加熱式タバコ、電子タバコなど、使用する製品によって発生する汚損や臭気の程度は異なります。

契約書では、喫煙の可否や、喫煙に起因するクロス張り替え、消臭、清掃費用の負担について明記しておくことが望ましいでしょう。

電球交換などの軽微な修繕

電球やリモコンの電池交換など、少額で日常的に発生する軽微な修繕については、借主負担とする特約が設けられることがあります。

例えば、次のようなものです。

電球や蛍光灯の交換
リモコンの電池交換
蛇口先端のパッキン交換
その他、少額で容易に対応できる消耗品の交換

ただし、給湯器やエアコン本体の故障など、本来オーナーが修理すべき設備まで、軽微な修繕として借主に負担させることはできません。

負担の範囲を明確に区別する必要があります。

原状回復における耐用年数の考え方

借主に責任がある傷や汚れが見つかったとしても、交換費用の全額をそのまま請求できるとは限りません。

すでに長期間使用され、価値が低下している設備や内装については、経過年数を考慮して借主負担額を計算します。

例えば、新築時から20年間張り替えていない壁紙を借主が汚した場合、壁紙が新品であることを前提に、張り替え費用全額を借主へ請求するのは適切ではありません。

原状回復ガイドラインでは、対象物によって経過年数の考え方が異なります。

経年劣化を基本的に考慮しないもの

経過年数による価値減少を、基本的に細かく計算しないものとして、次のようなものがあります。

畳表
襖紙


フローリング

例えば、借主がフローリングを明らかに通常損耗を超えて傷つけた場合には、仮に20年以上経過していたとしても、修繕費を請求できる可能性があります。

設備ごとの耐用年数を考慮するもの

設備機器については、一般的に設備ごとの耐用年数を踏まえて負担額を考えます。

例えば、次のような設備です。

エアコン
給湯器
キッチン
洗面台
トイレ
温水洗浄便座

設備が設置された直後に借主の過失で壊された場合と、耐用年数に近い期間使用した後に壊された場合では、借主の負担割合が異なります。

すでに相当期間使用している設備について、新品交換費用の全額を借主に請求することは、一般的には難しくなります。

壁紙やクッションフロアは6年で残存価値1円が基本

原状回復で特にトラブルになりやすいのが、壁紙やクッションフロアです。

原状回復ガイドラインでは、次のようなものについて、6年間で価値がほぼなくなる考え方が示されています。

壁紙(クロス)
カーペット
クッションフロア

一般的には、施工から6年が経過すると、残存価値を1平米当たり1円として計算しますので、ほぼ価値がなくなるという考え方です。

そのため、6年以上使用した壁紙を借主が汚した場合、壁紙そのものの価値だけを基準にすると、ほとんど借主へ請求できません。

しかし、ここで注意したいのは、「6年を過ぎたら、借主に一切請求できない」と単純に決まっているわけではないことです。

6年を超えた壁紙でも借主負担になる可能性がある

借主には、耐用年数を過ぎた設備や内装であっても、善管注意義務をもって使用する義務があります。

そのため、壁紙の価値がほぼなくなっていたとしても、借主が著しく汚損・破損させた結果、本来は不要だった張り替え工事が必要になった場合、工事費用の一部を負担しなければならない可能性があります。

過去の裁判例では、施工から8年が経過した壁紙について、借主側に一定割合の負担を認めた事例があります。

また、国土交通省住宅局の平成23年8月「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン (再改訂版)」12ページでは、以下のように明記されています。

経過年数を超えた設備等であっても(中略)賃借人が故意・過失により設備等を破損し、使用不能としてしまった場合には、賃貸住宅の設備等として本来機能していた状態まで戻す、例えば、賃借人がクロスに故意に行った落書きを消すための費用(工事費や人件費等)などについては、賃借人の負担となることがあるものである。

つまり、借主が適切に使用していれば、さらに長期間使用できた可能性があるにもかかわらず、故意・過失や善管注意義務違反によって全面張り替えが必要になったのであれば、工事費用の一部を負担してもらう余地があります。

原状回復トラブルを防ぐために必要なこと

原状回復トラブルを防ぐためには、退去時の交渉だけではなく、入居時からの準備が重要です。

①入居前の状態を記録する

入居前には、室内の写真を撮影し、既存の傷や汚れを記録しておくことが大切です。

借主にも室内状況確認書などを提出してもらい、入居前から存在した傷なのか、入居後に発生した傷なのかを区別できるようにします。

②契約書の特約を明確にする

クリーニング費用、エアコン清掃費、ペット飼育、喫煙、軽微な修繕などについて、借主負担とする場合には、その内容を具体的に記載します。

③退去時には借主と状態を確認する

退去立会いを行い、借主と一緒に室内の状態を確認します。

その場で費用を断定できない場合には、後日見積もりを取得した上で精算することを説明します。

借主に十分な説明をせず、一方的に高額な請求書を送ると、トラブルに発展しやすくなります。

④適正な見積もりを取得する

原状回復費用を請求する場合には、施工範囲と単価が分かる見積もりを用意します。

壁紙の一部に傷があるにもかかわらず、合理的な理由なく建物全体の壁紙張り替え費用を請求することは適切ではありません。

損傷との因果関係がある範囲に限定し、経過年数も考慮して精算する必要があります。

まとめ|原状回復は原則・特約・経過年数で判断する

賃貸物件の原状回復では、まず次の原則を理解することが重要です。

経年劣化や通常損耗はオーナー・貸主が負担し、借主の故意・過失、善管注意義務違反、通常の使用方法に反する行為によって生じた損傷は、借主負担となる可能性があります。

また、クリーニング費用、ペットや喫煙による汚損、軽微な修繕などについては、明確な特約を設けることで借主負担とできる場合があります。

ただし、特約には必要性や合理性があり、借主が内容を理解した上で合意していることが重要です。

壁紙やクッションフロアなどは、6年間で残存価値がほぼなくなると考えられていますが、6年を超えたからといって、借主に一切責任がなくなるわけではありません。

故意・過失や善管注意義務違反によって、本来不要だった修繕工事が必要になった場合には、工事費用の一部を借主に請求できる可能性があります。

原状回復では、単に「オーナー負担」「借主負担」と決めつけるのではなく、原状回復ガイドライン、賃貸借契約書の特約、入居期間、施工時期、損傷の原因や程度を総合的に確認することが大切です。

今回の内容をもとに、退去時には法的に請求できる範囲を整理し、借主へ丁寧に説明した上で、円滑な原状回復費用の精算を行っていただければと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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