賃貸マンションや賃貸アパートを経営する際、多くの家主は自身で管理するのではなく、不動産会社に管理を任せたいと考えています。
その時に出てくる一つの悩みは「管理委託とサブリース、どちらの方が得なんだろうか…」というものです。
今回は管理委託とサブリースの収支比較と運営面での問題点について解説していきます。
管理委託とサブリースの割合
主に3つの管理形態があります。
①管理委託:不動産会社に管理を任せる
②サブリース:不動産会社に借り上げてもらう(※)
③自主管理:不動産オーナー自身が管理
※本来、サブリースは「転貸」を意味しますので、不動産オーナーと不動産会社間の契約を「マスターリース」、不動産会社と転借人間の契約を「サブリース」と呼びますが、この全体のスキームを「サブリース」と呼ぶことが多いため、以降もサブリースと表記します。
では、他の不動産オーナーはどのような管理形態で運営しているのでしょうか?
2019年に(公財)日本住宅総合センターが300の不動産オーナーを対象に実施したアンケートによると、以下のような割合になりました。
①管理委託:54.7%(一部委託も含む)
②サブリース:20.3%
③自主管理:25.0%
しかし、調査内容では建築時期が新しいほどサブリースの割合が多く、2011年以降に建築された建物では37.8%がサブリースとなっていたようです。
これは、「相続対策」という名目で盛んに賃貸マンション・賃貸アパートの建築営業が行われ、空室リスクをカバーするために「サブリースなら賃料が保証されるので安心ですよ!」という営業トークによって、サブリース契約が多く行われたことが起因していると推測されます。
収支で比較すると管理委託が有利
やはり賃貸経営を行う上で大きな心配になるのは「空室」ですね。
空室が発生すると収入が減り、収支が悪化するため、やはり金銭面での不安があります。
では、いくつかのケースを想定してシミュレーションしながら比較してみましょう。
管理料の相場はいくら?
まずは管理料の相場ですが、相場については以下の記事で解説しています。
結論だけ抜粋すると、
■管理委託:総賃料に対して3~5%(税別)
■サブリース:総賃料に対して約15~25%
となります。
サブリースの想定収支
冒頭でお伝えしたアンケート調査では、サブリースの借り上げ賃料についても実施しており、平均値は20%(不動産オーナーは転借人が支払った総賃料の80%を受け取る)となっていたようでした。
賃料10万円、管理費1万円で10年間維持したと想定した場合、15%と20%の場合の収入は以下のようになります。
■15%:93,500円×120か月=11,220,000円(1,122万円)
■20%:88,000円×120か月=10,560,000円(1,056万円)
管理委託の想定収支とシミュレーション比較
次に、管理委託の場合を検証していきましょう。
条件は以下を想定してみます。
■管理委託料:5%(税別)
■入居期間:2~5年
■空室期間:2~6か月
■更新料:賃料1か月分
■更新時の報酬(事務手数料):0.5か月(税別)
※(公財)日本賃貸住宅管理協会の調査によると、入居期間は単身者が2~4年が最も多く、ファミリー世帯は4~6年が最も多いと公表されています。
上記の条件でシミュレーションを行ったところ、以下のようになりました。
2年毎に更新せずコンスタントに入れ替わることがなければ、多くの場合で管理委託の方が収益で勝っています。
しかし、過去に半年以上の空室を経験した、またはいつも短期で解約されてしまうという不動産オーナーは、サブリースに後ろ髪を引かれてしまうかもしれません。
サブリースの3大デメリット
適切な空室対策を実施することで空室期間を圧縮し、テナントリテンションを実施して居住年数を伸ばせば安心して運営できますが、やはり大きなトラウマをお持ちの不動産オーナーがいるのも実情です。
それでも私は管理委託を強くお勧めしています。
その理由は、サブリースには大きなデメリットが3つ潜んでいるからです。
※以降、借り上げする不動産会社を「サブリース会社」と表記します。
借り上げ賃料を減額される可能性がある
契約時は「借り上げてくれて、空室が出てもずっと一定の賃料が入り続けるなら安心だ!」と思っていたのに、数年経過するとサブリース会社から「最近の賃貸状況を鑑みて賃料を●%減額させてください。」と交渉されることがあります。
「私はずっと一定の賃料が入り続けるから安心して契約したのに、それは嫌ですよ!」と突っぱねても、「ほら、契約書には賃料改定の条項が入っていますよね?」と言い返され、渋々減額に応じることになるケースは珍しくありません。
賃貸管理の場合であっても、一度退去が出て次の募集を行う際に賃料を減額する可能性はありますが、それは一部屋毎の話なので、サブリースのように全体の賃料が下がる訳ではありません。
また、サブリースで賃料保証とうたわれていても、1か月間の空室期間は賃料の支払いを免除するといった免責事項が設けられていることがあります。
その場合はほとんどのケースで管理委託の方が利益は多くなります。
不動産会社に不満があっても容易に解約できない
借り上げ賃料が減額されて収支が悪化し、「もうサブリースは辞めたいな…」と感じた場合や、サブリース会社の管理が悪く「他の不動産会社に変更したい!」と思い立ったとしても、大きなハードルとなるのが「違約金」です。
サブリースの多くは多額の違約金が定められており、容易に解約できないことが多いです。
また、「それは不当だ!」と不満を持っても、法律では借主が強く守られていますので、あくまで法律で強く守られるのは借主であるサブリース会社となります。
管理委託でも優良とは言えない管理会社の場合は違約金が設けられている場合もありますが、それでもサブリース会社の違約金に比べれば少額です。
一般的には「3か月前通知」で違約金もなく管理委託を解約できますので、管理体制に不満があれば容易に他社へ切り替えることができます。
転借人(入居者)の選別ができない
不動産オーナーにとって、あまり人柄が良いとはいえない入居者が住んでしまったり、退去後の室内の破損・汚損が酷く原状回復費用が多く掛かったりすることは避けたいと思います。
そのためには、申込した人なら誰でも良いという訳ではなく、人柄や属性の選別は行った方が得策です。
入居審査については以下の記事で解説しています。
入居審査時の確認事項①書類
入居審査時の確認事項②外見
入居審査時の確認事項③言動・行動
しかし、サブリースの場合はサブリース会社に決定権があるため、不動産オーナーが判断することはできません。
管理状態が悪かったとしても管理委託と違って解約されるリスクも少ないため、あまり本腰入れて管理してくれないケースもあります。
まとめ
もちろんサブリース会社や状況によってはサブリースの方が良いという場合もありますが、多くの場合で収益面と運営面で管理委託の方がお勧めです。
そのため、私はサブリースに興味を持っている不動産オーナー様からご相談いただいても、デメリットと管理委託がお勧めであることを伝えていますので、サブリースは一切やっていません。(サブリースの方が儲かりますが…)
また、付き合う不動産会社によって不動産オーナーの収支や建物の管理状態、各種対策は全く異なる結果になるため、本当に実力があり信頼できる不動産会社を見つけることが大事です。
その上で、容易に解約できないというのは非常に大きなデメリットとなりますので、これからの管理形態を検討されている不動産オーナー様はこちらの記事をぜひ参考になさっていただければと思います。
ご愛読いただきありがとうございました。