前回は「約款解説:契約期間中の修繕」ということで、国土交通省のホームページで掲載されている「賃貸住宅標準契約書」を例として、第9条に記載されている契約期間中に修繕を行う場合の条文について解説を行いました。
不動産業者でも契約約款に記載されている一文がどのような意味で、そのような場面のトラブルを抑止するために記載され、どのような場面で用いられるのかを理解していないケースが非常に多いため、実務をイメージして第10条の解説を行います。
第10 条(契約の解除)
甲は、乙が次に掲げる義務に違反した場合において、甲が相当の期間を定めて当該義務の履行を催告したにもかかわらず、その期間内に当該義務が履行されないときは、本契約を解除することができる。
一 第4条第1項に規定する賃料支払義務
二 第5条第2項に規定する共益費支払義務
三 前条第1項後段に規定する乙の費用負担義務
2 甲は、乙が次に掲げる義務に違反した場合において、甲が相当の期間を定めて当該義務の履行を催告したにもかかわらず、その期間内に当該義務が履行されずに当該義務違反により本契約を継続することが困難であると認められるに至ったときは、本契約を解除することができる。
一 第3条に規定する本物件の使用目的遵守義務
二 第8条各項に規定する義務(同条第3項に規定する義務のうち、別表第1第六号から第八号に掲げる行為に係るものを除く。)
三 その他本契約書に規定する乙の義務
3 甲又は乙の一方について、次のいずれかに該当した場合には、その相手方は、何らの催告も要せずして、本契約を解除することができる。
一 第7条第1項各号の確約に反する事実が判明した場合
二 契約締結後に自ら又は役員が反社会的勢力に該当した場合
4 甲は、乙が第7条第2項に規定する義務に違反した場合又は別表第1第六号から第八号に掲げる行為を行った場合には、何らの催告も要せずして、本契約を解除することができる。
これだけ色々書いてあったり、「第〇条第〇項に規定する」と引用するような記載が多かったりで、内容がイマイチ分かり辛いと思います。まずは内容を理解するためにこの条文を簡単に表現してみます。
第10 条(契約の解除)
借主が次の①~③に該当して、一定期間の猶予を与えても対応しない場合、大家さんは解約できる。
①家賃を払わない
②共益費を払わない
③借主が壊した物の修理費用を払わない
2 借主が次の①~③に該当して、一定期間の猶予を与えても改善しない場合、大家さんは解約できる。
①お部屋を住居以外で使用している
②契約で禁止していることをやっている
③その他契約で借主がやらなければいけないことをしない
3 大家さんも借主も、次の①~②に該当したときはすぐに解約できる
①実は暴力団関係者だった
②契約してから暴力団関係者になった
4 借主が暴力団にお部屋を出入りさせたり、近隣に暴力的な行動や言動をしたりした場合、大家さんはすぐに解約できる
つまり、借主がルールを守らないときは解約できるということが定められた条文となります。
1項と2項では、「相当の期間を定めて当該義務の履行を催告したにもかかわらず」という文言が出てきます。この「相当の期間」とはどのくらいの期間のことで、「催告」とはそもそも何でしょうか。
「相当の期間(そうとうのきかん)」
相当な期間が具体的に何日を指すのか、ということは明文化されておらず、状況や判断する人によって解釈が異なりますが、1週間が一つの目安になります。
例えば、家賃滞納が発生し、電話で督促しても払ってもらえず、内容証明郵便で催告して1週間経過しても音沙汰無しであれば、契約条文に則って考えると解除の要件に該当すると考えられます。(法律上どうかは別の話です)
反対に期間が短すぎると無効と判断されてしまいますので、1週間~10日を目安として考えておきましょう。
「催告(さいこく)」
催告と似た言葉で「督促(とくそく)」というものもありますが、それらはどのような違いがあるのでしょうか。インターネットで検索すると以下のように解説が出てきます。
督促・・・約束や義務を果たすように催促(催告)すること。
【例】指定期日までに賃料の入金がなかったので「家賃のご入金がないのですが・・・」と連絡する
催告・・・相手方に対して一定の行為を請求すること。
【例】督促しても支払いがないので、「1週間以内に家賃を支払ってください。入金がなければ契約を解除します。」という内容の内容証明郵便を送る
「用法遵守義務」ともいいますが、契約で定めた使用目的を守る義務のことを指します。今回の契約書では「住居」としての使用を目的としていますので、事務所利用や店舗利用は遵守義務違反に該当します。
では、家賃滞納や使用目的遵守義務の違反が発生した場合、催告して相当の期間が経過すれば契約を解除できるのでしょうか。
そのためには、「信頼関係の破壊」という要件が必要となります。
賃貸借契約を行う場合、貸主と借主の信頼関係によって成り立っていると考えられますので、その信頼関係が破壊されたと判断できる場合に契約の解除を行うことができます。
家賃滞納では、お部屋を貸す対価としてお金をもらうのであって、お金を払わないということは約束を破る行為となり、滞納の回数や期間によって「信頼関係が成り立たない」と判断されることになります。過去の判例によると、3か月以上の家賃滞納によって信頼関係が破壊されたと判断されています。
使用目的を守らない、実は暴力団だった、近隣に「殺すぞ!コノヤロー!」など叫びまわるなども同様の考え方となります。
しかし、3か月以上の家賃滞納で契約の解除が認められたとしても、明け渡し完了までの期間を考えると、家主にとって大きな損失になってしまいます。
家賃滞納は家賃保証会社によってリスク対策を行うか、借主が長年住んでいて家賃保証会社に加入していない場合は、滞納の早期発見と早期対応が求められます。督促の方法は過去のブログ「家賃集金の極意」で紹介しています。
この契約の解除に関する条項は、賃貸トラブルが発生した際に解決するための指針になるとともに、借主へ契約時に説明することで「解除されないように気を付けよう」と未然防止に繋がります。
ご愛読いただきありがとうございました。