前回は「約款解説:敷金」ということで、国土交通省のホームページで掲載されている「賃貸住宅標準契約書」を例として、第6条に記載されている敷金に関する条文の解説を行いました。
不動産業者でも契約約款に記載されている一文がどのような意味で、そのような場面のトラブルを抑止するために記載され、どのような場面で用いられるのかを理解していないケースが非常に多いため、実務をイメージして第7条の解説を行います。
第7条(反社会的勢力の排除)
甲及び乙は、それぞれ相手方に対し、次の各号の事項を確約する。
一 自らが、暴力団、暴力団関係企業、総会屋若しくはこれらに準ずる者又はその構成員(以下総称して「反社会的勢力」という。)ではないこと。
二 自らの役員(業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者をいう。)が反社会的勢力ではないこと。
三 反社会的勢力に自己の名義を利用させ、この契約を締結するものでないこと。
四 自ら又は第三者を利用して、次の行為をしないこと。
ア 相手方に対する脅迫的な言動又は暴力を用いる行為
イ 偽計又は威力を用いて相手方の業務を妨害し、又は信用を毀損する行為
2 乙は、甲の承諾の有無にかかわらず、本物件の全部又は一部につき、反社会的勢力に賃借権を譲渡し、又は転貸してはならない。
各都道府県や市区町村では、「暴力団排除条例」というものを規定しています。これは暴力団への資金源を断ち、暴力団を撲滅するための条例となります。金銭の提供に限らず、不動産の賃貸であれば居住空間や事務所等の提供も一種の利益提供となるため、賃貸借契約書ではほとんどこの条項が設けられています。
一言でいうと、「ヤクザやその関係者とは契約しないし、万が一それらと分かった時は契約を解除する」という条文となります。
一言でいうとヤクザのことです。
ヤクザも資金繰りが必要なため、表向きは会社を保有しているケースが多々見られます。しかし、ヤクザが起業という訳にはいかないため、すでに経営状態が悪化している会社を乗っ取り、隠れ蓑にしているというケースがあります。
そういった会社や、暴力団に対して資金提供をしている会社などを「暴力団関係企業」と呼びます。
話は変わりますが、株式会社の「株」を持っていると、株主総会へ出席して意見を述べる権利が発生します。その際、株式会社としては、「不利益になるような発言や信用を落とすような発言はしてほしくない」という気持ちは当然あります。
そのような気持ちに漬け込み、以下のようなやり取りをする人々を「総会屋」と呼びます。
法律条文や契約約款には「若しくは」に似た言葉で、「又は(または)」や「並びに(ならびに)」、「及び(および)」といったものがあります。これらの意味を理解していないと、契約条文を読むのは苦労すると思います。
それぞれを簡単にお伝えすると以下のようになります。
では、「若しくは」と「又は」のどちらを使ってもいいかというと、そういう訳ではなく、一定のルールが存在します。簡単に図解すると以下のようなイメージです。
つまり、大グループを分けるのが「若しくは」「並びに」で、小グループを分けるのは「及び」「又は」です。使用するのが1つのみであれば前者だけで問題ありませんが、2つ以上使う場合にはそれらを複合させます。
それらを踏まえてもう一度条文を見てみましょう。
これらは以下のような分類になります。
暴力団、暴力団関係企業、総会屋
若しくは
これらに準ずる者 又は その構成員
なんだかこんがらがって来ましたね。これらは慣れですが、とりあえずORなのか、ANDなのかだけ整理できれば条文を読む上では問題ありません。
暴力団ではないけど、周りから見れば暴力団と一緒と言える人のことです。
暴力団に所属している人のことです。ちなみに、所属はしていないが資金提供や武器の提供などを行っている人のことを「準構成員」といいます。
「〇〇会」という暴力団の名義やその代表者、構成員の名義では当然に契約はできません。そこで、一見普通に見える人、中には高い属性の人の名義で賃貸借契約し、実態としては暴力団やその関係者が利用するということが考えられますので、そういった「名義貸し行為」を禁止する規定です。
もちろん「家賃下げないと殺すぞ!」「このエアコン新品にしないとお宅の子供がどうなるか分かっているのか?」といった”言葉”は当然に脅迫に当たりますが、そういった意味を示すジェスチャーも当然脅迫に該当します。
例えば「家賃下げないと・・・(親指で首を切るような仕草)」「このエアコン新品にしないとお宅のお子さん・・・ふっふっふっ(不敵な笑い)」などです。ただ、このジェスチャーは証拠として残りにくいので厄介です。
偽計とは人をだますことで、威力は大声や机を叩くなどの圧力をかける行為です。
信用に傷をつけるような”嘘”を言いふらしたり、他人に文書を送りつけたり、インターネットで公開したりすることを指します。
余談ですが、名誉棄損や信用棄損に該当するのは「嘘の事実」により信用に傷をつけた場合に適用されます。例えば、事実とは異なり「あの大家さんは暴力団と繋がっている」「あそこの家主は壊れた設備を全く直さないと皆が言っている」などです。
しかし、「嘘の事実」ではなく「個人の感想」はあまりに度が超えていなければ名誉棄損や信用棄損に該当しないとされています。例えば「あの大家さんの話し方は暴力団みたいに感じる」「あそこの家主は壊れた設備を直してくれなさそう」などです。
反社会的勢力の条文でこの説明をするのは違う気もしますが・・・
前回書いた「約款解説:敷金」でお伝えした「債権」と「債務」のように、賃貸借契約を締結すると家主は「賃貸権」、借主は「賃借権」を得ることになります。
投資用不動産を売却する場合、賃貸権は売主から買主に譲渡されることになり、賃料を受け取る債権や借主が退去した際に物件を返還してもらう権利を渡すことになります。これは家主の話ですが、反対に借主が持っている賃借権を譲渡することも法律上可能です。また、借主が死亡した場合、賃借権は相続の対象となります。
この条項では、暴力団と賃貸借契約するのはNGで、賃借権を暴力団に渡すことも禁止にしています。
上記に続いてですが、賃借した物件(人から借りたもの)を他人へ貸すことを「転貸(てんたい)」と呼び、別名「又貸し(またがし)」といいます。簡単に表現したイメージ図は以下のようになります。
この条項では、暴力団やその関係者に対して転貸することも禁止しています。
このように、契約条文では専門用語が当たり前のように出てきますので、読んでも理解し辛いという方が非常に多いです。一つずつ言葉を理解し、契約条文の趣旨を理解することが重要です。
ご愛読いただきありがとうございました。