おそらく品川区・目黒区・港区の賃貸マンション・賃貸アパートであれば、入居時の費用として敷金1か月・礼金1か月と設定しているケースが一般的かと思います。私自身は需要と供給のバランスが合っていれば問題ないと考えています。
しかし、首都圏の空室率も徐々に増加してきており、2020年8月現在は新型コロナウィルスの蔓延で引越し自体が例年より少なくなってきていることから、例年に比べて空室も決まり辛くなってきているのが現状です。
そんな中で、やはり空室対策の一つとして何か差別化を図るべく、「フリーレント」を付けたり、「AD(広告宣伝費)」を付けたりと、工夫する家主様も少なからずいらっしゃいます。そのような対策を施していくのは素晴らしいことだと思います。
その上で、私が金銭面で差別化を図るのであれば真っ先に取り組むべきは「敷金」と「礼金」だと考えています。その理由を具体的に説明するために、まず賃貸市況を見ていきましょう。
2020年某日に「SUUMO」で東急目黒線のすべての駅にチェックを入れて検索したところ、28,366件の該当がありました。
そこで、「敷金(保証金)なし」にチェックを入れて検索すると6,149件、「敷金(保証金)なし」はチェックを入れずに「礼金なし」のみチェックを入れて検索すると5,807件になり、いずれにしても約20%に絞り込まれました。
驚くのはここからで、「敷金(保証金)なし」「礼金なし」ともにチェックを入れて検索すると1,454件になったのです。つまり、約5%に絞り込まれ、他の約95%の競合物件はなくなったのです。
これは、賃貸物件を探すお客様がインターネットで希望条件を検索した際、敷金・礼金ともに1か月とした状態では100件の該当が出てきたとすると、敷金・礼金ともに「なし」とするだけで5件にまで減り、競合物件が100件中95件もなくなったことになります。
では、99件の敵と戦う場合と、4件の敵と戦う場合、どちらの方が勝率は高くなるでしょうか? もうすでにお分かりかと思います。
ちなみに、私の経験上ではお部屋探しをされる方が段々敷金や礼金を敬遠する傾向を実感しています。敷金は最終的にクリーニング代を差し引いた分が返ってくるという認識は強くなっていますが、礼金は返って来ないということは一般常識となりつつあり、「なるべくない方がいい」と検索される方が増えている傾向になります。
フリーレント1か月と礼金無しは借主にとって経済的メリットは同じですが、フリーレントより礼金無しの方を求めるニーズの方が圧倒的に多いです。
ADを1か月とした場合は客付け業者(不動産業者)に支払う報酬となりますので、借主に対するメリットはありません。ADの付帯は客付け業者がゴリ押し営業で決めてくるケースの方が多くなるため、短期解約の発生や申込意思の低いお客様を無理やり受注してキャンセルが発生するリスクが高まります。
以上の理由から、私はフリーレントやADよりも先に礼金から着手する方が合理的であり、実際に効果が出ると実感しています。
では、「敷金無し」はどうでしょうか?
おそらく以下のような不安も生じると思います。
「家賃を滞納されてしまったら心配・・・」
「退去時のクリーニング代はどうするのかな・・・」
「もし退去時に原状回復費用が発生したら払ってもらえないんじゃないか・・・」
「初期費用が下がると変な人が入居するのでは・・・」
もちろん、ただ敷金を0にする、というのは上記のようなリスクが発生してしまいますので、以下のようなリスクヘッジが必要です。
①家賃保証会社への加入(借主)
最近では7割以上の賃貸借契約では家賃保証会社が利用されています。これにより、家賃滞納の心配はなくなります。また、家賃保証会社によって「原状回復費用」や「残置物処分費用」も補填してもらえます。
②クリーニング代の先預かり
敷金の代わりに、退去時に想定されるクリーニング代を算出し、入居時に預かります。これにより、敷金無しという表記で募集を行うことが可能となります。
私の経験上では、退去時に原状回復費用を請求するケースは5件中1~2件あるかないかという頻度で、ほとんどは数千円レベルの金額です。それ以上になるケースは敷金で賄えるような金額ではないケースがほとんどです。
③退去時の立会いを2回行う
敷金を預かっていない場合、クリーニング代で賄えない原状回復費用分は別途請求する必要があります。最も簡単な解決方法としては、引越しが完了した後で鍵を受領する退去立会に加えて、居住している状態で1回目の退去立会を行うことです。
原状回復費用を請求するような破損・汚損の多くは、大体見える部分にあります。例えば、タバコのヤニ汚れ、壁の穴・凹み、洗面台の亀裂などです。これらの原状回復費用を算定し、2回目の明け渡し立会時に現金で清算すれば完了となります。
賃貸管理会社(元付業者)の負担は増えますが、私は確実に退去清算を行うために敷金無しで成約した物件では契約時の特約にその旨を記載し、退去立会を2回実施しています。
④定期借家契約の採用
確かに家賃滞納者の傾向として、なるべく初期費用の安い物件を好む傾向にあることは事実です。定期借家契約を採用することで、立ち退き費用は期待できず、契約期間満了により自身で再度引越し費用を負担して出ていかなければいけないため、そのような物件にはそもそも入居しません。
⑤内見・申込時の面談
不良入居者というのは、一度会えば大体判別することができます。代表的な判別方法としては、以下のようなタイプがあります。
・やたらと細かい部分まで聞いてくる
トラブルが発生した際にやたらと法律を出してくる、自身の利益だけを主張して話し合いにならない、といったケースが多いです。
・内見時や申込時にガムを噛んだり舌打ちしたりする
騒音トラブルが発生しやすく、注意喚起しても話を聞かない・高圧的な対応をしてくるケースが多いです。
・賃料減額や賃料発生日の延長など、何かと交渉してくる
入居後にあれこれ文句を付けてきたり、それらを理由に賃料減額を交渉してきたりするケースが多いです。
私は過去に敷金無しの物件を数百件扱ってきましたが、以上のようなリスクヘッジを行うことで、冒頭のようなトラブルが発生したケースはありませんでした。
余談ですが、「敷金有り・礼金無し」と「敷金無し(クリーニング代有り)・礼金無し」は空室対策に効果的ですが、「敷金無し(クリーニング代有り)・礼金有り」は避けましょう。以前に行ったことがありますが、かえって問い合わせが減ってしまい、「敷金有り・礼金有り」に戻したらスムーズに成約したこともあります。おそらく、借主にとっていやらしい印象を与えてしまうのだと思います。
敷金:有 | 敷金:無 | |
礼金:有 | 〇 | × |
礼金:無 | 〇 | 〇 |
誰でも従来のやり方ではなく、新しいことに取り組むのは勇気がいることです。しかし、現状を打破しようと思ったときには新しいことに取り組まなければ何も変わらず、周りの状況だけが変わっていってしまいます。家主様の賃貸経営を全体像として良好な状態にするため、状況に応じて敷金・礼金に関しても提案させていただいております。
ご愛読いただきありがとうございました。