大家さんが頭を抱える問題の一つが「原状回復費用」です。前回のブログでお伝えした「現況確認書」を作成し、写真とともに記録を残しておくことは大変重要ですが、同時に大切なことは「退去立会」での借主とのやり取りです。
借主(退去者)としてはなるべく費用の負担はしたくありません。ただ「払ってください!」と強引に請求しても難航するケースが多いのは当然です。いかに納得感のある説明を行うかが重要なのです。
納得感を生み出すには「合理性」と「配慮」が必要です。
そのためには、まずは「色々マスキングテープを貼っていきますが、気にしないでくださいね」と一言添えてから、修繕した方が良い場所にマスキングテープを貼っていきます。
その途中で、もし綺麗にお住まいであれば「綺麗にお住まいいただいていてオーナー様も嬉しいと思います」と褒めたり、引越し先に馴染みがあれば「昔行ったことがあるんですが良い街ですよね」などと雑談を行ったりしながら、自然に人間関係を構築していきます。
一通りチェックが終わったら、4つに分類して説明していきます。
①元々あった破損・汚損
現況確認書を見ながら元々あったものであったことを伝えます。
元々あったものであればあえて伝えなくても良い気がしますが、これをお伝えすることで「ちゃんと正しくチェックしてくれている」という安心感が生まれ、以降の対応が円滑に進められる可能性が高まります。
②貸主負担または免除となるもの
経年劣化によるもの(特約で定めているものは除く)は貸主の負担となること、至って軽微なものやクリーニングで除去できる汚損などは免除となることを伝えます。重要なのは、借主の負担を免除する旨を伝えて、「譲歩している(配慮している)」ということを伝えることです。
③火災保険を適用できるもの
実は借主の過失によって破損があった場合、火災保険が適用できるケースが非常に多いのです。賃貸の契約をする際には借主へ火災保険に加入してもらいますが、その中には「借家人賠償責任保険」や「修理費用特約」といったものが保険会社によって名称は異なるものの大体組み込まれています。これは、借家人(=借主)が大家さんに対して損害”賠償”を請求される”責任”を負った際に、その分を賄うという保険なのです。
保険会社や加入しているプランによって異なりますが、私の経験上では、
・物をぶつけて壁に穴を空けてしまった
・ドライヤーを落として洗面台を割ってしまった
・キッチンの扉を開きすぎて壊してしまった
・ガラスにぶつかってしまって割ってしまった
・トイレのタンクに固いものをぶつけて割ってしまった
など、多くの場面で適用されています。これは借主も知らないケースが多く、積極的に申請することで借主の負担を減らすことができ、借主からの感謝に繋がります。
④借主負担となるもの
そして、元々あったもの、貸主負担となるもの、免除するもの、火災保険を申請するものを除き、最後にどうしても借主負担となってしまうものがありご負担いただく(敷金から差し引きする)旨を伝えるとスムーズに了承してもらえることが多くなり、トラブルになる可能性も格段に低くなります。
また、上記のような納得感のある説明を行う際の前提として、「借主(退去者)と仲良くなる」ことは非常に重要です。なぜなら、「敵」として認識されている方にいくら説明を行っても反論ばかり探されてしまい、聞く耳も持たなくなってしまいますが、仲良くなることで説明したことを受け入れてくれやすくなります。
退去立会時の最初に雑談することも大事ですが、普段からの付き合い方や接し方が退去立会時に大きく影響していきます。
現況確認書が作成されていない場合
不動産会社の中で現況確認書を作成していないケースは珍しくありません。また、存在していても「キズ」とだけ書いてあって、どのようなキズだったか記されていない場合も多く、写真が残っているケースはほとんどありません。
その場合は、退去される借主が入居される前の原状回復やリフォームの見積もりを確認して、どの部分が新しくなっている状態で賃貸したかを特定していくことが重要です。
また、記録がない以上はその借主が破損・汚損を発生させたか確証が得られないため、上記のような流れを最大限実行することで承諾を得るように心掛けることが重要です。
まとめ
私は普段から借主(入居者)との良好な関係性を築きながら、退去時にはこのようなポイントを押さえて立会を行うことにより、トラブルに発展することなく原状回復費用の清算を行っています。
また、不動産会社によっては「引越しが終わったら鍵を返しに来てください」「現地に置いておいてください」「鍵を郵送で返却してください」といった、退去立会しない会社も多いですが、それでは原状回復費用の清算でトラブルになる確率は高くなってしまいます。
結果的に、家主自身の負担が増えていき、長期間で考えると多額の負担に繋がってしまいます。
家主自身が退去立会を行うことは推奨しておりませんが、しっかりと退去清算を行ってくれる不動産会社と付き合うことは賃貸経営において大事な要素になります。
ご愛読いただきありがとうございました。