原状回復トラブルを防ぐ「現況確認書」の注意点

最新更新日 2023年12月29日
執筆:宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士 三好 貴大

東京都庁に設けられている賃貸住宅のトラブルに関する相談窓口で、最も多く相談が寄せられているのは「退去時の敷金精算」、つまり「原状回復費用の請求」に関するものです。2016年のデータでは1位が「退去時の敷金精算」で38%、2位が「契約」で18%と、断トツで多い相談内容となっています。

原状回復に関するトラブルを防止するため、行政ではガイドラインの公表や条例の作成などに取り組み、不動産業者は引渡し時の現況確認などを実施して防止に努めておりますが、それでもトラブルに至るケースは後を絶ちません。
原状回復のガイドラインについては以下の記事で解説しています。

賃貸管理で知っておきたい「原状回復ガイドライン」って何?

今回は原状回復トラブルの代表的な防止策である「現況確認書」について解説していきます。

原状回復トラブルになる大きな原因

上記のガイドラインでは、簡単に言うと経年劣化は貸主が負担し、故意・過失など責任が問われる原因で破損・汚損などが発生した場合は借主が負担するものと定めています。
また、東京都内の賃貸住宅であれば、賃貸借契約の際に宅建業者が規定の情報を借主に対して事前説明することが定められています。

では、ガイドラインも公表して契約前に事前説明まで行っているのに、なぜトラブルに発展するケースが多いのか?

それは、破損・汚損に関する「証拠」の有無です。

借主が破損・汚損を発生させてしまったという証拠がなければ、「入居したときからこの傷はあった」と言われてしまえば、対抗するための合理的な根拠がありません。もちろん過度に請求することは控えなければいけませんが、ガイドラインに照らし合わせて借主の負担となるものは負担するよう請求するのは当然のことだと思います。

入居時には破損・汚損がなかったという証拠を残しておくため、国土交通省のガイドラインでは「現況確認書(入退去時の物件状況及び原状回復確認リスト)」の参考書式が公表されており、不動産業者によって様々な書式で現況確認書を作成していますが、多くの現況確認書では原状回復トラブルの抑止力は低いと感じています。

一般的な「現況確認書」の問題点

「現況確認書」の問題点

国土交通省のガイドラインで公表されている現況確認書の雛形はこちらとなります。

多くの現況確認書は文章のみ記載するもので、具体的にどの場所にどのような傷があるのか特定し辛いものです。
そうすると、詳しい場所が分からなかったり、小さな傷しかなかった場所に大きな傷が出来ても判別できなかったり、様々な問題が発生します。

また、不動産業界でよく行われているのは、契約時または物件引き渡し時に現況確認書を渡し、入居後1週間以内に借主が自身で室内をチェックして現況確認書を返送してもらうという方法です。
しかし、返送されず記録が残らないことや、「これは入居時にあったけど、気にならなかったので記入しなかった」と反論されるといったトラブルが発生します。「返送がない場合は破損・汚損はなかったものとする」と一筆書いてあっても、破損・汚損の立証は貸主側が行うものなので、それは通用しないのが実情です。

理想的な「現況確認書」とは?

では、退去時にしっかり判断材料となる現況確認書を作成するにはどのようにすればいいのでしょうか?
大事なポイントは以下となります。

①現況確認書には必ず「間取り図」を入れる

文字だけだと前述した通り、どの場所に破損や汚損が元々あったのか分かり辛くなるため、現況確認書には必ず間取り図を入れて、間取り図に記載すれば該当箇所が分かりやすくなります

②破損・汚損のチェックは貸主側で行う

借主任せだと認識の相違や未返送などのトラブルが発生する可能性があるため、賃貸管理会社や媒介業者が物件をチェックして破損・汚損等を現況確認書に記載することが理想的です。
もしそれらの業者が実施してくれない場合は、貸主で行うことも検討の余地があります。

そして、契約時または物件引き渡し時に現況確認書に借主から署名捺印をもらいます。(電子契約でも可能)

例えば、私が過去に作成した現況確認書は以下となります。

私が現況確認書を作成する際は新品にした箇所も記録しています。破損・汚損がなかったことがリフォーム履歴などを見返さなくても確認することができるためです。

③写真で記録を残す

現況確認書に記載する破損・汚損の箇所は必ず写真で記録を残します。

加えて重要なことは、部屋全体を撮影して傷がなかったことの記録を残すことです。
傷の場所だけ写真をとっても、傷がなかったことを立証することができないためです。

最近のスマートフォンは性能が良いので、一眼レフカメラなどを用意しなくてもスマートフォンで充分です。
壁1面に対して写真1~2枚を目安に撮影していきましょう。

貸主側で「現況確認書」を作成するメリット

もちろん退去時に破損・汚損等があった場合に明確な証拠が残っているため、原状回復費用の清算はスムーズに行えます。
同時に副産物として、不動産業者側が現況確認書を作成して説明すると、過度な破損・汚損の発生率が非常に低くなります

所要時間は1Kやワンルームなら20分前後、2LDKや3LDKであれば30~40分くらいとなります。
その時間で原状回復トラブルを防止でき、費用請求もスムーズになるようであれば、実施することを強くお勧めします。

まとめ

原状回復トラブルを防止するための現況確認書を作成するためには、
①現況確認書には必ず「間取り図」を入れる
②破損・汚損のチェックは貸主側(賃貸管理会社や媒介業者など)で行う
③写真で記録を残す(傷のある場所と全体の状況)

を実施することが重要です。

賃貸トラブルは未然に防ぐことを第一に考え、万が一トラブルが発生した際も円滑に処理できるよう対策することが重要です。
そのためには手間を惜しまず、一つずつ大事な対策を実施していくことが、長期的に賃貸経営を良好にしていくための鍵となります。

もちろんお付き合いしている不動産会社さんがこのような現況確認書を作成してくれればベストですが、もし難しい場合は貸主自身で実施するか、場合によっては不動産会社を変更することも選択肢の一つかもしれません。
ご愛読いただきありがとうございました。

PREV
NEXT