家賃滞納、ゴミ出しのルール違反、騒音問題。賃貸管理では、入居者に改善を求めなければならない場面があります。その際、大切なのは、ルールを伝えるだけでなく、相手の事情も想像することです。
事情を理解することは、滞納やルール違反を認めることではありません。解決に向けて話し合える関係をつくるための第一歩です。
今回は、私自身の病気の経験と管理現場での実例を交えながら、「盗人にも五分の理を認める」という考え方についてお伝えします。
本記事は、当社YouTubeチャンネルで公開している
「賃貸で必要なマインド~痙攣性発声障害の学び~ 」
という動画の内容を、文字で整理したものです。
「当たり前のことができない」と知った経験
私は以前、「痙攣性発声障害」という病気に非常に悩まされました。
現在も症状が残っており、動画の冒頭で会社名を伝えるだけでも、4〜5回ほど撮り直すことがあります。また、大勢の前で大きな声を出すときや電話に出たときの一発目の声は出づらいことが多いです。
声を出そうとすると喉がきゅっと締まり、声が出ない、声がどもる感じになるのです。
発症したのは20歳でした。私は19歳から大学を休学し、学費を稼ぐために、非常に厳しい会社で電話営業をしていました。
最初の数か月は成績が出ず、100~200人ほどがいるフロアで毎日のように叱られ、謝っていました。強面の上司が顔のすぐ近くまで迫ってくることもあり、強いストレスを感じる環境でした。
そのような生活を1年ほど続けるうちに、夕方になると声が出なくなりました。やがて、声が出なくなる時間が午後3時頃、昼過ぎ、午前中へと早まり、最後には1日に十数分ほどしか、まともに話せなくなってしまいました。
電話営業では、声が頼りです。その声を出せない状況は非常につらいものでしたが、その後、リハビリなどを通じて少しずつ回復していきました。
自分の常識だけでは相手を理解できない
当時、上司からは「気持ちが足りない」「普通に声を出せばいいだけではないか」と言われました。しかし、私は声を出したくないのではなく、出したくても出せなかったのです。
上司にとって、話すことはごく当たり前の行為です。病気になる前の私も同じで、声を出せないという状況を十分には理解できなかったと思います。
この経験を通じて、自分には当たり前にできることでも、相手にはできない事情があるかもしれないと考えるようになりました。
病気そのものはつらい経験でした。それでも、この視点を持てたことには感謝しています。賃貸管理の現場でも、入居者の行動を見てすぐに責めるのではなく、その背景を想像する習慣につながったからです。
「盗人にも五分の理を認める」を賃貸管理に生かす
この経験は、デール・カーネギーの『人を動かす』にある一節で、非常に共感を覚えました。
どんな極悪人でも、凶悪な行為を「仕方がなかった」「やむを得なかった」「正しいことをしていただけだ」と、本人なりの事情や理屈を持っていたと書かれています。
また、歴史に残るような極悪人でも自分は悪くない思っていたということは、ましては普通の人が自分の行為を悪いと感じることはないのでは、とも書かれていました。
賃貸トラブルでも同様です。オーナーや管理会社から見れば理解しにくい行動でも、本人には何らかの理由があるかもしれず、ましてはそれを悪いと思っているとは考え辛いのが実情です。
そのうえで、行動の良し悪しではなく、まず「なぜ、そのような状況になっているのか」を確認する。その姿勢が、解決への糸口になると考えています。
家賃滞納の背景にある事情
家賃滞納が起きれば、「契約で約束したのだから払ってほしい」と考えるのは当然です。
一方で、病気によって仕事に支障が出て、収入が減ってしまった可能性もあります。本来は早めに相談してもらえればよいのですが、本人のプライドや話しづらさから事情を説明できず、滞納に至っているのかもしれません。
事情を聞いたからといって、必ず支払いを待てるわけではありません。それでも、背景が分からないまま督促する場合と、状況を把握して話し合う場合とでは、対応の進め方が変わります。
ゴミ出しのルール違反は、以前の習慣が原因の場合もある
ゴミ出しのルールは、地域や建物によって異なります。
以前は24時間ゴミを出せる建物に住んでいた人が、収集日の朝に出す地域へ引っ越してきたのかもしれません。分別方法の違いを理解できず、以前の習慣のまま出している可能性もあります。
「ルールを守らない人」と決めつける前に、現在のルールが正しく伝わっているかを確認することが大切です。
騒音は、本人が周囲への影響に気づいていないこともある
騒音問題も、これまでの住環境が関係する場合があります。
周囲への音をあまり気にせず生活できた人が木造アパートへ引っ越し、以前と同じ感覚でテレビを見たり、話したりしているのかもしれません。
周囲は迷惑を感じていても、本人は音が伝わっていることに気づいていない可能性があります。まずは状況を具体的に伝え、認識を確かめることが必要です。
管理現場で経験した、伝え方による違い
ある物件で、前管理会社は家賃を滞納している入居者に対し、「家賃を払うのは約束だろ。大人なのだから約束を守りなさい。」と強い調子で伝えたそうです。
その入居者は腹を立て、「絶対に家賃は払わない」と態度を硬化させてしまい、最終的には裁判となり、強制執行の直前に退去したとのことでした。
もちろん、言い方だけが原因だったとは断定できません。ただ、相手を責める伝え方が対立を深め、話し合いを難しくしてしまった可能性はあります。
支払いを求める内容が正しくても、伝え方によって解決から遠ざかることがあるのです。
事情を聞く姿勢を示したことで、滞納が改善したケース
その後、弊社がこの物件の管理を引き継ぎました。その物件には、ほかにも毎月のように家賃の支払いが遅れる方がいました。
以前から連絡が取れないと聞いていました。確かに、電話やメール、SMSなどで連絡しても、一向に連絡が取れません。
そこで、私は次のような趣旨の手紙を投函しました。
すると、電話が掛かってきて、話し合うことができました。その後3〜4か月ほどは支払いが遅れることもありましたが、それ以降、滞納はなくなりました。
ごくまれに支払いが遅れそうなときにも、事前に相談してくれるようになったのです。
この経験からも、相手の事情を聞く姿勢が、連絡の取りやすさや、その後の対応に大きく関わると感じています。
賃貸トラブルでは、事情の確認と改善の要請を両立する
賃貸トラブルに対応する際は、「相手にも事情があるかもしれない」と考えると考えるのが重要です。
オーナーや管理会社が、入居者に強く抗議したくなる気持ちは理解できます。そのようなときこそ、一歩立ち止まり、「相手には、こちらから見えていない事情があるのではないか」と考えてみてください。
その配慮を事前に伝えながら、それを踏まえて何をお願いしたいのかを伝えることで、相手の対応も軟化して、かえってトラブル対応を気に信頼関係が高まることは少なくありません。
相手の事情を理解しようとする姿勢と、必要な改善を求める姿勢は両立できます。「盗人にも五分の理を認める」という考え方を、賃貸トラブルに向き合う際の一つの視点として役立てていただければと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。


