費用面の空室対策の一環として、敷金・礼金だけでなく「フリーレント」を付けることを考える賃貸オーナーもいると思います。
また、不動産業者からは「ADを付けた方が決まりやすくなります!」「今時ADを付けないと決まりません!」などと提案されるケース、短期で解約されてしまうといけないと思い「短期解約違約金」を設定している賃貸オーナーもいると思います。
今回は、それぞれの基礎知識をはじめ、これまでの経験からそれらをどのような順番で検討するべきなのか、また賃貸オーナーの知らない隠れた初期費用についても解説します。
本記事は、当社YouTubeチャンネルで公開している
「フリーレント・AD・違約金等の検討」
という動画の内容を、文字で整理したものです。
費用に関する条件項目の整理
まず、空室を早く埋めるために検討される費用面に関する条件項目として、代表的なものを整理します。
フリーレント
一定期間の賃料を無料にすることです。
例えば、契約開始日から1か月間は賃料を免除(フリーレント1か月)する、という形です。
引っ越し時には、仲介手数料、保証会社の初回保証料、火災保険料、前家賃、引っ越し代など、さまざまな費用がかかり、今住んでいる物件と新しく借りる物件の家賃が重なることもあります。
そのため、フリーレントが付いていると、初期費用や入居直後の負担感を大きく軽減できる可能性があります。
なお、賃料は免除しますが、管理費は免除の対象外となります。
AD
「AD」という言葉は、一般の賃貸オーナーにはあまり馴染みがないかもしれません。
通常、賃貸オーナーが募集を依頼している会社、いわゆる元付業者に対して、成約時に一定の報酬を支払います。
それとは別に、借主を連れてきた仲介業者、いわゆる客付け業者に対して、賃貸オーナー側から追加で報酬を支払うものです。
賃貸オーナーが別で支払う場合もあれば、中には早く決めるために元付業者が賃貸オーナーからもらう手数料の一部をADに充てているケースもあります。
実務上は、「AD50」「AD100」という記載が一般的で、AD100であれば賃料の1か月分を客付け業者に支払うという意味です。
中には「AD1」と記載する場合もあり、これはAD100と同じです。
これにより、客付け業者に対して「この物件を積極的に紹介してください」と促す効果を狙います。
短期解約違約金
短期解約違約金は、1年未満で解約した場合には賃料1か月分の違約金を支払う、といった条件です。
短期間で退去されてしまうと、再募集の手間や空室期間、原状回復の負担が発生します。そのため、短期解約を防止する目的で設定されることがあります。
一方で、借主からすると、将来の事情変更があった場合に違約金が発生するため、心理的な負担になることもあります。
そのため、いつも短期解約違約金を付けていた場合は、それを外すことも一つの検討項目になります。
費用面の条件項目で考える優先順位
では、これらの費用項目をどのような優先順位で検討すればよいのでしょうか。
これは、私自身の実務経験に基づく部分が大きいのですが、基本的には次の順番で考えることが多いです。
第一優先:礼金なし
最初に取り組むべきは、前回解説した「礼金をなしにする」ことだと考えています。
礼金は、借りる方にとって非常に分かりやすい費用です。
物件情報を見たときに、礼金があるか、ないかはすぐに分かります。
また、SUUMOなどのポータルサイトでも、「礼金なし」に絞って検索することができます。
さらに、レインズなどの業者間サイトでも、一覧上で礼金の条件は確認することができますが、フリーレントやAD等は詳細または募集図面を見ないと確認できません。
つまり、借主にも客付け業者にも、礼金なしは非常に伝わりやすい条件です。
第二優先:フリーレント
礼金の次に検討したいのが、フリーレントです。
同じような立地、同じような広さ、同じような設備の物件が複数ある場合、礼金なしに加えてフリーレントが付いている物件は、初期費用面で目立ちます。
そのため、礼金なしにしても反響が弱い場合や、もう少し訴求力を高めたい場合には、次にフリーレントを検討するのがよいと思います。
第三優先:AD
不動産仲介業は、基本的に成功報酬です。
どれだけ時間をかけて案内しても、契約に至らなければ売上は発生しません。そのため、客付け業者にとって、どの物件を紹介するかは非常に重要です。
もちろん、すべての業者がADだけを見て紹介しているわけではなく、借主に合う物件をきちんと紹介してくれる会社もあります。
ただ、実務上は、ADが付いている物件を優先的に紹介する業者も少なくありません。
価格帯により、フリーレントとADは前後する場合もある
賃料8万円を超える物件であれば上記の順番で良いと思いますが、不動産業者によっては「仲介手数料半額!」と謳っている会社もあり、仮に賃料5万円だと2.5万円(税別)の手数料となります。
1日に複数の物件を内見してまわって、その後の申込手続きや契約手続きを考えると、ほぼ1日費やすことになり、これも話が流れれば無収入となってしまいます。
近隣相場にもよりますが、「賃料が一定以下の場合はAD付の物件でないと紹介しない」という業者もいますので、価格帯により検討する必要は出てきます。
第四優先:短期解約違約金の免除
私自身は、「そもそも短期解約違約金を付けることで本当に短期解約を防げるのか」という疑問があるため、あまり積極的に付けていません。
もちろん、心理的な抑止力にはなると思います。
しかし、実際に短期で退去する方の多くは、やむを得ない事情によることが多い印象です。
例えば、転勤、家庭の事情、子育ての事情、帰国、介護、仕事の変化などです。
そのような事情がある場合、違約金があるからといって退去をやめるとは限りません。
実際の退去データから見た短期解約
今回の動画を作成するにあたり、直近の2025年の頭から現在までに、私自身が関わった退去について確認しました。
対象となった退去は24件ありましたが、そのうち1年未満で退去された方は3件でした。
24件中3件なので、割合としては12.5%、おおよそ10分の1です。
理由としては、家庭の事情、子育ての事情、帰国などで、いずれもやむを得ない内容でした。
もちろん、これは私自身が関わった限られた件数ですので、業界全体の統計ではありませんが、業界全体で見ても、1年未満の解約が50%もあるとは考えづらいです。
私の感覚としても、短期解約はおおよそ10%程度ではないかと感じています。
10%程度のリスクのために、「1年未満で解約したら違約金がかかります」という条件を付けたことで、見送られてしまったら本当に合理的なのかという問題が残ってしまいます。
オーナーの知らないキックバックとオプション
ここまでお話ししたのは、賃貸オーナーが自ら条件を調整する費用項目でした。
しかし、実は賃貸オーナーがほとんど知らないところで、借主の負担が増えてしまっていることがあります。
それが、「キックバック」と「オプション費用」です。
保証委託料のキックバック
まず確認していただきたいのが、保証会社の初回保証委託料です。
現在の賃貸借契約では、保証会社への加入がほぼ標準になっています。弊社でも、原則として全件、保証会社に加入していただくようにしています。
保証委託料にはおおよその相場があります。
住居の場合、初回保証委託料は、賃料と管理費の合計額の50%程度であることが多いです。※その他、年間または毎月の手数料がある場合で、初回だけの場合を除きます。
これが70%、80%、100%となっている場合には、通常より高く設定されている可能性があります。
その増えている部分がどこに行っているのかというと、多くの場合、不動産業者への手数料(キックバック)になっている可能性があります。
例えば、賃貸オーナーが礼金をなしにして、借主の初期費用を下げようとしているとします。
ところが、保証委託料が通常50%のところ100%になっていた場合、借主からすると、賃貸オーナーが免除した礼金のうち半分は保証料の水増しによって打ち消されてしまうことになります。
なお、この保証料設定は保証会社と不動産会社の間で締結した契約に基づいているので、特定の物件だけ手数料とともに保証料も下げてもらう、ということはできません。
あまりに相場とかけ離れている場合は、お付き合いする不動産会社の見直しが必要となる可能性があります。
オプション強制付帯による追加費用
借主側の目線で募集情報を見ると、賃貸オーナーが知らない間に、さまざまなオプションが付いていることがあります。
代表的なものとしては、次のようなものがあります。
・室内消毒費
・24時間サポート
・消火剤
・防災グッズ
・福利厚生サービスのような月額クラブ会員費
24時間サポートについては、月額数百円から1,000円台程度のものもあります。中には、複数のオプションが組み合わさって、毎月の負担が数千円増えているケースもあります。
これらは、借主にとってメリットがある場合もありますが、必ずしも全員に必要とは限りません。
また、強制加入になっていると、借主から見ると事実上の家賃増額のように感じられます。
例えば、賃貸オーナーが早期成約のために賃料を3,000円下げたとします。
しかし、募集を依頼している会社が、借主に対して月額3,000円のオプションを付けていた場合、借主から見れば月額負担は結局変わりません。
むしろ賃貸オーナーからすると、「それならオプションを外して、そのうち2,000円でも家賃として受け取りたい」と感じることもあると思います。
このように、賃貸オーナーが知らないところで借主負担が増えていると、空室対策の効果が薄れてしまう可能性があります。
借りる側の目線で募集状況を確認
募集を依頼したら、ぜひ一度、借りる側の目線でご自身の物件をSUUMO等のポータルサイトで確認していただきたいです。
その際、表示されている初期費用や月額費用、保証料、オプション費用を確認します。
また、可能であれば、実際に客付け業者が使用している募集図面も見てみるとよいです。
ただし、元付業者から見せてもらう図面は、賃貸オーナー向けに整えられている可能性もありますので、できれば実際に借主に渡されている資料を見ることが重要です。
もし、保証料やオプション費用が高いと感じた場合には、管理会社や募集会社に確認してみるとよいと思います。
そのうえで、「これは借主にとって必要なサービスだからそのままでよい」と判断することもあると思いますが、「これが原因で初期費用や月額費用が高く見えているのであれば、外してほしい」と相談することも考えられます。
もし、会社の規定で外せないと言われた場合には、それを踏まえてその会社と付き合い続けるのか、別の会社に切り替えるのかを検討する材料にもなります。
おわりに
今回は、フリーレント、AD、短期解約違約金免除、さらに賃貸オーナーからは見えず借主側に発生している費用について解説しました。
長期空室は収入の減少に直結する一方で、封水切れによる虫や汚臭の発生、設備類内部の成分固着による破損、相続発生時の評価による相続税への悪影響など、様々なリスクを生じるものです。
早期成約を目指す方法は多岐にわたりますが、その中でも効果が高いのは初期費用として発生する諸条件の見直しとなります。
投資用物件やファンド系物件では、なるべく高い賃料で成約させるため、礼金無・フリーレント2か月・AD200といった破格の設定の場合もあります。(一般の賃貸オーナーにはオススメしませんが)
今回解説した内容を踏まえて、今一度現在の条件や状況の確認を行い、考えてみるキッカケになれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。


