空室を募集する際、管理会社にお任せという場合もあれば、特に自主管理の賃貸オーナーは複数社にお願いするケース、「募集させてください!」と飛び込まれるとそのまま依頼してしまっているケースなど様々かと思います。
実際には1社だけが良い、2~3社が良いという明確な答えはありませんが、安易に1社または2~3社に任せるのは得策ではないですし、4社以上に任せる場合はかえって空室対策の視点では良くないこともあります。
実際に何社に任せるのが良いのかは賃貸オーナーによって異なると思いますが、それを考える上での材料となる知識について解説します。
依頼する業者数の選択肢
賃貸募集を依頼する際の業者数としては、主に次のようなパターンがあります。
一社のみに任せる(専任)
いわゆる「専任媒介」で、一社に絞って募集を依頼する方法です。
2~3社に任せる(一般)
複数社に依頼し、ある程度競争してもらいながら募集を進める方法です。
4社以上に広く任せる
中には4~5社とはいわず、10社以上、場合によっては20社近くが同じ部屋を募集しているケースもあります。
業者間サイトを見ると、同じ部屋が何社も並んで掲載されていることがあります。
一見すると、たくさんの会社に任せた方が、それだけ多くの窓口からお客様を連れてきてもらえそうに思えます。
「1社より2社、2社より3社、もっと増やした方が早く決まるのではないか」と考えるのは自然なことです。
しかし、実務上は、単純に多ければよいというものではありません。
むしろ、任せる会社が多すぎることで逆効果になることもあります。
「状況」と「方針」で最適解が決まる
私個人の考えとしては、何社に任せるのがよいかは、単純に数字で決めるものではなく、現在の状況と賃貸オーナーの方針によって判断するべきだと思っています。
特に大きいのは、次の二点です。
管理会社がいるかどうか
賃貸管理会社に管理を任せている場合は、基本的にはその管理会社、もしくはその管理会社のグループ会社の仲介部門を軸に募集するのが原則だと考えています。
理由は単純で、入居後の運営まで見据えると、整合性が取りやすいからです。
管理会社は、入居後のクレーム対応、滞納対応、更新対応、退去時の原状回復なども担当する立場です。
そのため、どのような方を入居させるかという点について、本来は非常に慎重であるべきです。
ところが、まったく別の募集会社が間に入ると、どうしても視点が変わります。
募集会社としては、まず契約を成立させなければ売上になりません。そのため、管理会社から見ると少し不安のある申込者でも、強引に話を進めてしまうことがあります。
入居後にトラブルが起きたときの温度差
仮に、自社で募集して入れた入居者であれば、入居後に多少トラブルがあっても、「自分たちで決めた方だから仕方がない」「何とか対応しよう」という気持ちになります。
しかし、他社が入れた入居者で問題が起きると、どうしても
「なぜこの方を通したのだろう」
「こちらは管理する立場なのに、募集段階で十分に見極めてもらえなかった」
という不満が出やすくなります。
もちろん、管理会社としてはその後も対応しなければなりませんが、気持ちとしては違いますし、責任の所在も曖昧になってしまいます。
結果として、管理会社と賃貸オーナーとの関係にも悪影響が出ることがあります。
したがって、管理を任せているのであれば、まずはその管理会社を中心に募集を考えるのが基本です。
管理を任せていない場合
一方で、管理を任せていない場合は、私は大きく二つの方針に分けて考えるべきだと思っています。
【方針①】とにかく早く決めたい
空室期間をできるだけ短くしたい、とにかく早期成約を優先したい、という考え方です。
【方針②】できるだけ良い入居者を選びたい
トラブルになりにくい方、長く住んでくださりそうな方、物件に合った方に入っていただくことを優先する考え方です。
このどちらを重視するかで、任せる会社数は変わってきます。
早期成約を優先する
この場合は、2~3社が最もバランスが良いです。
一社だけに任せると、その会社としては
「そのうち決まるだろう」
「ほかに競合がいないから、急がなくてもよい」
という意識になりやすい面があります。
もちろん、どの会社もそうだとは言いません。
非常に誠実に、一生懸命取り組んでくださる会社もありますが、一般論としては、競争相手がいないと緊張感は薄れやすいものです。
2~3社だと、各社とも
「何とか自分たちで決めたい」
「他社に先を越されたくない」
という意識が働きやすくなります。
実際、私自身も修業時代に3社競合の物件を担当した際、「何としても自分たちで決めたい」と非常に強く感じた記憶があります。
こうした競争意識は、広告の出し方、写真の撮り方、反響対応のスピードなどにも表れます。
そのため、早く決めることを優先するなら、2~3社程度が最も競争意識を引き出しやすいのです。
良い入居者を選びたい
一方で、入居者の質を重視する場合は、1社に任せる方が向いていると私は考えています。
複数社競合だと、どうしても「決めたい心理」が強くなります
2~3社で競争していると、担当者としては
「この申込を逃したら、他社で決まってしまうかもしれない」
という心理が働きます。
そうすると、本来であれば慎重に見た方がよい申込でも、多少無理に進めてしまうことがあります。
例えば、
・入居後にトラブルになりそうな要素がある
・近いうちに転居する可能性が高い
・生活スタイルが物件とあまり合っていない
といった事情があっても、競争の中では「まずは契約を取りたい」という気持ちが先に立ってしまうことがあるのです。
長く住んでいただける方を選びたいなら、落ち着いて判断できる体制が必要です
賃貸オーナーの中には、
「すぐ決まらなくてもよいので、なるべくよい方に入っていただきたい」
「短期解約になりそうな方より、長く住んでくださる方を優先したい」
と考える方も少なくありません。
その場合は、競争よりも、1社としっかり方針を共有して、二人三脚で募集する方が望ましいのです。
なぜ4社以上はおすすめしないのか
ここで、「2~3社がよいなら、もっと増やせばもっと早く決まるのではないか」と思われるかもしれません。
しかし、私は4社以上による募集はおすすめしていません。
【理由①】競争意識が逆に薄れる
会社数が増えすぎると、今度は
「自分たちで決まるかどうか分からない」
「決まればラッキーだが、決まらなくても仕方ない」
という感覚になりやすくなります。
2~3社であれば、「頑張れば自分たちで決められる」という気持ちになります。
ところが10社、20社となると、もはや運の要素が大きくなり、担当者の本気度が落ちやすいのです。
【理由②】物件の見せ方が雑になりやすい
多くの会社が並列で募集していると、
・とりあえず写真だけ撮って載せておく
・最低限の情報だけ入れておく
という状態になりやすくなります。
つまり、「頑張って差別化して決めよう」というより、「載せるだけ載せておこう」という運用になりやすいのです。
また、中には誤った情報で掲載されていることもあり、それが入居後に発覚してトラブルになるケースもあります。
【理由③】決まらない理由が見えにくくなる
2~3社に任せて、それでも決まらないのであれば、それらの業者に感触を聞いたり、募集媒体を見たりして、
「そもそも家賃設定が高いのではないか」
「写真や募集条件に問題があるのではないか」
「室内の臭いや清掃状況など、物件そのものに課題があるのではないか」
といった見直しがしやすくなります。
しかし、10社以上に任せていると、問題が見えにくくなり、「もっと会社を増やせばよいのではないか」と発想しがちです。
本来は物件側を見直すべき場面でも、募集会社数の問題だと考えてしまうのです。
専任媒介(1社)の問題と対策
ここまでお話しすると、
「1社でじっくりやるのがよさそうだが、段々だらけてしまうのが心配だ」
と思われる方もいらっしゃると思います。
これは、まさにその通りです。
専任媒介の問題点は「競争意識が働かない」「段々だれてきてしまう」といったことです。
これらの対策として、1社に任せる場合に最も大切なのは、「任せきりにしないこと」です。
では、具体的にどのような方法があるのでしょうか。
まず1か月任せる
例えば、
「まずは御社に一か月専任に近い形でお願いしたい」
「その間、一生懸命取り組んでいただきたい」
「ただし、その後の対応や報告状況を見て、必要であれば他社に依頼することも考えたい」
ときっぱり伝えるということです。
こうすることで、募集会社としても
「せっかく任せてもらったのに、ここで結果を出さなければ、この募集案件を失うかもしれない」
という意識が働きます。
「得ること」よりも「失うこと」の方が大きく感じる
例えば、「これを達成したら100万円あげますよ」と言われるより、「これを達成しなかったら100万円失いますよ」と言われた方が、頑張ろうという気持ちにならないでしょうか。
そのため、「他社と競争して勝つこと」よりも、「この募集案件を失わないこと」の方が、かえって真剣に動いてくれることがあるのです。
ただし、完全な放任はおすすめできません
1社に任せる場合でも、
・どのような反響があったのか
・どの媒体に出しているのか
・写真や図面はきちんとしているか
・定期的に報告をくれるのか
といった点は、確認した方がよいと思います。
要するに、1社と二人三脚で進めるという意識が大切です。
おわりに
何社に任せるかより、「何を優先するか」が重要です
賃貸募集を何社に任せるべきかについては、一律の正解はありません。
ただ、実務上の目安としては次のように整理できると思います。
・管理を任せている場合→1社(管理会社)
・自主管理:早期成約を優先→2~3社
・自主管理:入居者の質を重視→1社
そして、管理委託の有無に限らず、1社のみに専任で任せる場合は、任せた会社に放任するのではなく、しっかり状況を確認しながら進めていくことが、最も重要だと思います。
今回のお話は、あくまで管理会社目線と私自身の経験に基づく一つの考え方です。
物件や地域によって例外はありますが、少しでも判断の参考になれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。


