抵当権は、特に不動産に関しては非常に多くの物件に設定されている、身近な権利です。また、抵当権については比較的イメージしやすいのですが、根抵当権については、説明文を読んだだけではなかなかイメージが湧きにくいです。
今回は、身近な抵当権と根抵当権について、実務でよくある場面を交えながら解説します。
本記事は、当社YouTubeチャンネルで公開している「抵当権と根抵当権」という動画の内容を、文字で整理したものです。
抵当権・根抵当権の代表的な登場場面:不動産融資
例えば、土地と建物を新たに購入する場合や、もともと所有していた土地に新しく建物を建てる場合、数千万円~数億円は掛かるケースが多いです。
それだけの現金を保有しており、一括払いができれば話は早いかもしれません。
しかし、実際にはそれほどの現金を持っていない、全額を現金で支払ってしまうと手元資金がなくなる、相続を考慮して借入しておきたい等、現金一括払い以外の選択肢を選ぶケースが極めて多いです。
そのため、金融機関から資金を借り入れて、不動産を購入・建築するという選択をする方が非常に多いです。
金融機関としては、お金を貸す以上、貸し付けた資金を確実に回収する必要があります。
そこで、万が一資金を貸し付けた方が返済できなくなった場合に備え、土地や建物に対して抵当権または根抵当権を設定します。
なお、抵当権と根抵当権の違いを説明するところまでは共通項目なので、「抵当権」で統一します。
抵当権に関わる登場人物
抵当権を設置する際、登場人物にはそれぞれ専門用語があります。
抵当権者
お金を貸す金融機関のことを指します。つまり、抵当権という権利を有している側です。
抵当権設定者
お金を借りる代わりに、自身の所有している不動産を担保として提供している側です。
ここで勘違いしやすいのが、「設定者」と聞くと、抵当権の設定を求める金融機関側をイメージしやすいですが、設定するのは所有者側なので、この考え方は慣れていきましょう。
物上保証人
基本的には、抵当権者と抵当権設定者の二者が登場人物となりますが、物上保証人という第三の登場人物が現れることがあります。
例えば、元々は個人が所有している土地に、法人が所有する建物を建築する場合、金融機関は土地・建物の両方に対して抵当権の設定を求めるのが通常です。
この場合、土地は個人、建物は法人となりますが、融資は建物の建築費を借入しますので、お金を借りるのは法人です。
そうなると、土地の所有者である大家さんが物上保証人となり、土地を担保として提供することになります。
また、建物の賃料収入によっては、個人から法人に移転させた方が良い場合がありますので、途中で建物だけ法人に売却し、その時点から土地所有者(個人)は物上保証人、建物所有者(法人)が抵当権設定者となる場合もあります。
競売と賃借人
金融機関にとって理想的なのは、何事もなくローンを返済し続けてもらい、最終的に完済することです。しかし、現実には返済が滞るケースもあります。
一般的に、返済が3か月程度滞ると、金融機関は抵当権の実行を検討します。そして、抵当権を実行することにより、金融機関は建物や土地を強制的に売却することができます。
その後、売却した売買代金から貸したお金を最大限回収します。
競売と任意売却
競売はオークション形式で行われ、最も高い金額を提示した人が落札します。
しかし、競売で不動産を購入するのは素人には難しく、通常の売却に比べて売買金額が下がる傾向がありました。(最近は、通常の売買と変わらないくらいの金額になっていると聞いています。)
金融機関としては、できる限り高く売却してほしいので、競売に至る前に金融機関または不動産業者が提案するのが「任意売却」です。
これは法律用語ではありませんが、競売前に通常の売買として売却する方法です。
本題とは逸れるのでこれ以上解説しませんが、「任意売却」という言葉はいざという時のために覚えておいた方が良いかもしれません。
競売が賃借人に与える影響
競売後、賃借人には2つの大きなリスクがあり、これは重要事項説明でも行われている内容です。
リスク①:6か月以内の退去
新しい所有者から退去を求められた場合、賃借人は、6か月間は従前と同じ条件で住み続けることができます。
しかし、裏を返せばその期間内に必ず退去しなければならず、立ち退き料などを請求することはできません。
リスク②:敷金が返還されない
通常の売買や任意売却では敷金は承継されますが、競売では敷金は承継されません。
そのため、旧所有者は倒産や破産の可能性が高いため返還する資金がなく、新所有者には返還義務がないため、敷金が戻らないケースが多くなります。
これらは、管理会社はもちろん、大家さんが競売後に賃借人に対してどのような影響を与えるのか知っておいて欲しい内容です。
抵当権と根抵当権の違い
これまでは抵当権と根抵当権の共通点について解説しました。
ここまではスムーズに理解できると思いますが、根抵当権について理解し辛いのはここからで、それは実例を踏まえて比較することでイメージしやすくなります。
違い①:マイホーム→抵当権、集合住宅→根抵当権
抵当権は、マイホームを購入して住宅ローンを組んだ場合に設定されるケースが非常に多いです。
反対に、住宅ローンで根抵当権が設定されているケースは、私は見たことがありません。
一方、根抵当権は、そのほとんどが賃貸アパートや賃貸マンション、投資用の分譲マンションを購入(建築)する場合です。
これは抵当権と違い、集合住宅や投資用分譲マンションの場合でも抵当権が設定されている場合があります。
なぜ、集合住宅では根抵当権が設定されることがあるのでしょうか。
それは以降の違いで理解できると思います。
違い②:完済後に、抵当権は消滅し、根抵当権は消滅しない
抵当権は、借入金を完済すると自動的に消滅します。
つまり、住宅ローンを完済すると、抵当権も消滅しますが、登記簿から勝手に消える訳ではないので、抹消登記によって登記簿から削除する必要があります。
一方で、根抵当権は完済しても消滅しません。これは将来発生する可能性のある借入まで担保するためです。
根抵当権が活躍する実例:大規模修繕費用・リフォーム費用等の借入
賃貸経営では、築10年~15年で大規模修繕、築30年前後で全面的なリフォームが必要になることがあります。
これを(根ではない)抵当権を設定すると、どのようになるのでしょうか。
購入または新築費用で第一抵当権、大規模修繕費用で第二抵当権、フルリフォーム費用で第三抵当権と、その都度抵当権を設定・登記し、完済したものから債務が消滅するので、抵当権の抹消登記を行う必要があります。
それを都度行っていくと、費用も手間も増えていってしまいます。
それを解消できるのが根抵当権です。
違い③:抵当権は特定の債権、根抵当権は極度額の範囲
あらかじめ〇〇万円と極度額を設定し、その範囲内であれば自由に貸し借りできるようにすることで、前述した抵当権の費用や手間はなくなります。
つまり、抵当権は特定の債権(マイホームの住宅ローン)を担保する抵当権ですが、根抵当権は〇〇万円と定めた極度額の範囲で貸し借りされた不特定多数の債権(建築費・大規模修繕費・リフォーム代…)を担保する抵当権ということになります。
また、完済しても消滅しないので、売却しない限りは抹消せずにおくことで、また何らかの理由で借入するときも抵当権を設定する必要がなくなります。
さいごに
抵当権と根抵当権の違いを理解することで、住宅ローンは抵当権一択ですが、賃貸不動産を購入または建築する際には、どちらが良いのか検討することができると思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。


