宅建(宅地建物取引士試験)の内容は、不動産取引について非常に広範囲に学べます。
しかし、宅建の内容の大多数が売買に関することで、実務上あまり使わない、そんなに触れることのない知識というものも多く、賃貸の取引に密接に関係している部分は範囲が限られます。
そのため、宅建の勉強をしても、賃貸の実務に携わる方はピンとこない内容が非常に多いです。
そこで、宅建の中でも賃貸の実務に関わるところだけを抜粋して解説する宅建シリーズの動画・解説を行うことにしました。
なお、「宅建を合格するため」ではなく、「賃貸で登場する宅建の内容を実例でイメージできるようになる」ことを目的にしていますので、その点ご了承ください。
制限行為能力者
普通に意思疎通ができて正常な判断ができる方であれば、問題なく取引はできますが、一部の方々は、なかなかそういうわけにもいきません。
正常な判断ができない方が騙されてしまったり、本当は不利な契約を強引に結ばされてしまったり、というのは可哀そうです。
法律では、正常な判断ができない方はしっかり保護してあげよう、ということでできたものが、この「制限行為能力者」にまつわる法制度です。
①未成年者
18歳”未満”の方です。
※2022年3月末までは20歳とされていました。
基礎知識1:未満と超える、以下と以上
大事なポイントなのですが、「未満」なのか「超える」なのか、また「以上」なのか「以下」なのか、この言葉は非常に重要になります。
これらの言葉はしっかり整理できるようにしておきましょう。
・18歳未満→0~17歳
・18歳を超える→19歳~
・18歳以下→0~18歳
・18歳以上→18歳~
本題
未成年の方と賃貸の実務で関わるときは、以下のようなケースが多いです。
・大学へ進学することが決まっているけど契約の時点では18歳未満である
・高校を卒業して就職することが決まっているけど契約の時点では18歳未満である
実務上、この場合は以下のように対応しています。
【パターン1】
親名義で契約、入居者はそのお子様(未成年者)
【パターン2】
未成年者が契約、親が連帯保証人になる
【パターン3】
未成年者が契約、保証会社に加入してもらう(親は緊急連絡先)
最近はこのパターン3が非常に多くなっています。
この場合、保証会社からは「親権者の同意書」を求められるケースが一般的です。
余談ですが、とある保証会社の営業担当者ににお話を伺ったところ、「大学進学の未成年者の契約で、親御さんが同意書を提出してくれる場合は、ほぼ審査を通しています」というお話を聞いたことがあります。
大学進学によってお子様を一人暮らしさせ、さらに大学の費用も支払っているという時点で、基本的にそのようなご家庭の家賃滞納リスクは非常に低いようなのです。
そのため、保証会社によっては「学生プラン」があり、本来であれば賃料・管理費等の合計額の50%が一般的な初回保証料ですが、定額1万円に割引しているケースもあります。
②成年被後見人
賃貸でそれほど多く関わることはないですが、重度の認知症になってしまい正常な判断ができない方、植物状態で会話ができないような方の場合は、正常な判断ができず、意思疎通が困難です。
借りる方にはあまりいませんが、大家さんが成年被後見人になっている、または大家さんが2分の1ずつの共有状態で、そのうちの一人が成年被後見人になっている、といった状況はたまにあります。
そして、成年被後見人の代わりに判断を行う立場の人を「成年後見人」と呼びます。
基礎知識2:「被」の有無について
「成年被後見人」と「成年後見人」という2つの言葉が出てきました。
この後にも「被保佐人」と「保佐人」、「被補助人」と「補助人」という言葉も出てきます。
勉強を始めた頃は、これらが混同してしまい、どちらがどちらなのか分からなくなってしまいます。
「成年”被”後見人」は、その制度を「受ける側」のことを指します。
不適切な例かもしれませんが、一般的な言葉でよく使われるのは「被害者」と「加害者」という言葉です。
「被害者」というのは被害を被ってしまった方、加害者というのはその被害を与えた方という意味で使われます。
つまり、「被」が付く言葉は、その制度や影響を受ける側の方ということになります。
そのため、「成年被後見人」とは、実際に認知症になってしまった方や、植物状態になってしまった方などを指す言葉になります。
成年被後見人をを守ってあげよう、この方々の代わりに代理人となってしっかり判断してあげよう、という立場の方が「成年後見人」になります。
法定後見と任意後見
基本的に成年後見人であることは変わらないのですが、そこに至るまでの経緯を指す言葉だとイメージすると分かりやすいです。
法定後見
例えば、認知症や植物状態になってしまった後から、その方の所有物の取引をしたいということになった場合、そのままでは同意が得られません。
そこで、この成年後見人を付けて取引することになります。
所定の手続きを踏んで成年後見人が付きますが、家庭裁判所から「この方が良いのではないか」と推薦され、弁護士や司法書士といった、法律の専門家が成年後見人になるのが一般的です。
その後、何か重大な判断をする際には、成年後見人は家庭裁判所の許可を得て取引を進めていくことになります。(許可が出ないケースも少なくありません)
このように法律に基づいて成年後見人を付けることを「法定後見」と呼びます。
ただ、法定後見によって定められた成年後見人は、基本的に「その方の財産が失われないようにしていこう」という、どちらかというと保守的な考えに基づいた制度になります。
したがって、売却はもちろんのこと、例えばリフォームをして賃料を上げたいといったことが、なかなか認められづらい傾向があります。
任意後見
できる限り自分の意向をきちんと汲んでもらい、柔軟に判断してもらえる人に後見人になってもらいたい、自分の身に何かあった時にはそういう方に後見になってもらいたい、と思う場合には、任意後見という制度を使います。
事前に任意で、「自分の身に何かあった時にはこの人に後見人になってもらいたい」という手続きを取ることによって、実際に自分の身に万が一のことがあった場合に、確実に認められるかどうかはまた別の話ではありますが、基本的にはご親族の方や信頼している士業の方などに、後見人になっていただくことができる制度です。
また、任意後見契約を締結する際に、代わりに判断してもらう代理の範囲を定めておけば、それは本人の意思として取り扱われますので、法定後見に比べて柔軟に様々な判断をすることが可能になります。
ちなみに、任意後見の場合は「後見監督人」が付くことが多く、一定以上の意思決定をするためには後見監督人や家庭裁判所の同意を得る必要があるため、なんでも任意後見によって定められた成年後見人の裁量で判断できる訳ではないことだけ理解しておきましょう。
被保佐人と被補助人
制限行為能力者の項目については、未成年者と成年被後見人だけ把握しておけば、賃貸の実務ではほとんど問題がないと思っています。
なぜなら、私がこれまでお会いしたことがあるのは、被保佐人の方に一度だけであり、被補助人の方にはお会いしたことがありません。
ただ、参考までに、どういった方が被保佐人・被補助人になってしまうのかについてお話しします。
被保佐人
私がお会いした方は、生まれつきの身体の麻痺をお持ちの方でした。
話し方にも障害が出てきてしまっていましたが、こちらがお話ししたことも理解できますし、相手が話したこともちゃんと聞いてあげれば理解することができますので、意思疎通そのものは取れる状態でした。
しかし、身体の麻痺と、話すときのぎこちなさがありましたので、仮に悪質な不動産業者がまくし立てるように話をして、「はい」という回答を引き出すということも考えられます。
そのため、司法書士が補佐人になっていました。
被補助人
私はお会いしたことがないのですが、例えばギャンブル依存症になってしまった方が該当する可能性があります。
ギャンブル依存症の方は、通常の日常会話や意思判断に問題はありません。
しかし、「パチンコに行きたい」「競馬に行きたい」という衝動が生じたときに、本来は1億円で売却できる持ち家を「あなたが7,000万円で売ってくれるなら今すぐ現金で支払います」と言われてしまうと、衝動的に話を進めてしまうリスクがあります。
そこで、所有している不動産を売却するといった一定の重要な行為については、必ず補助人の同意を得なければならない状態にしておけば、仮にその場で契約をしてしまっても、後から後から取消できるようになります。
おわりに
今回解説したように「制限行為能力者」がどういった状態の方が対象となるのかイメージできるようになると、細かな規定を学ぶ際にも理由が理解しやすくなると思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。


