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有料級!定期借家契約のまとめ

最新更新日 2025年12月06日
執筆:宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士 三好 貴大

これまで複数の記事で定期借家契約について紹介してきました。
今回は、それらの内容を一つの動画・記事にまとめ、定期借家契約にまつわる全体的な概要や実務、懸念点の要点をまとめて解説します。

3つの理想

賃貸経営において理想的な状態とは、おそらく次の3点です。

1.良い入居者だけに住んでもらいたい。
2.入居後にトラブルなく、良好な状態で住み続けてもらいたい。
3.信頼関係が継続できないと判断した場合には、途中で契約を解除できるようにしたい。

この3つの理想を叶えることができるのが、定期借家契約です。

普通借家契約との違い

従来の普通借家契約は、戦前から存在する法律に基づいています。
当時の時代背景として、現在のように賃貸物件が充実しているわけではなく、借主を強く保護することを目的としていたため、借主にとって非常に有利な法律となっています。

そのため、例えば入居者がトラブルを起こして何度注意しても改善されない場合や、家賃滞納が続く場合でも、借主が抵抗する場合は、貸主は「正当事由」や「信頼関係の破壊」といった法的な根拠を示し、裁判所の判断を仰いて契約を解除する必要があります。

しかし実際には、裁判例を見ると借主に有利な判断が多く、貸主側にとって契約解除のハードルは非常に高いのが現状です。
さらに、弁護士費用や裁判費用、場合によっては立退料の支払いが必要となるケースもあり、実務上は非常に負担が大きいのです。

こうした背景から、2000年に「定期建物賃貸借契約(定期借家契約)」が新たに生まれました。
これは、例えば「2年間」という期限を区切って契約を締結し、期間満了とともに一度契約を終了するという仕組みです。
入居者が引き続き居住を希望する場合は、再度新しい定期借家契約を締結することで、住み続けることができます。

元々は、「3年間だけ転勤になったのでその間だけ貸したい」「3年後に建物を取り壊す予定なので、それまでの間だけ貸したい」といった、一時的な賃貸を目的として作られた契約制度でした。

しかし現在では、この仕組みを活用して「2年ごとに契約を結び直す」ことで、実質的に普通借家契約の更新と同じように運用する方法が一般化しています。
つまり、契約期間毎に区切るものの、実際には同じ入居者が住み続けることができるという点で、非常に利便性の高い契約形態として利用されるようになっています。

とはいえ、実際の統計データはありませんが、定期借家契約を管理会社や不動産会社側から積極的に提案し、活用しているケースというのは、全体のうち多くても5%以内ではないかと感じています。(体感は1%~3%以下)

そのため、弊社で管理を請け負うケースの中には、定期借家契約がひとつのきっかけになっていることもあります。

3つの懸念点

定期借家契約というものが良さそうだと知り、管理会社に「使うことはできないのか」と相談すると、多くは3つの懸念点が出てきます。

1.抵抗感

「定期借家契約は決まりづらい。借りる人にとって不利な契約なので嫌がる人が多い」といった答えが返ってくることが多いです。

実際どうなのかというと、確かに一時的な賃貸を目的としている場合は、抵抗感が存在するのは事実です。

しかし一方で、この「再契約を希望できる定期借家契約」に関しては、むしろメリットになります。
例えば、仮に建物全体でほとんどの入居者が定期借家契約で住んでいる場合、「定期借家でも構わない」「自分は契約終了によって追い出されることはないだろう」と考える、一定のモラルを持つ方々が多く住んでいるということになります。

さらに、何か問題が発生しても合法的に対応してもらえるという状態で皆さんが暮らしているわけですから、不安な点のある人はそもそも住まない可能性が高いのです。
その時点で、定期借家契約を採用しているアパートやマンションは「良識のある人ばかりが住んでいる建物」というお墨付きが得られるわけです。

そのため、「できれば長く住んでいただきたい」「トラブルのない快適な環境で過ごしていただきたい」という想いを伝えると、入居希望者にとっても抵抗感どころか、むしろ安心感につながることが多いのです。

ある建物で、入居された方にアンケートを取っていた事例がありましたが、「定期借家だからこの物件に決めました」という声が比較的多く寄せられました。
したがって、抵抗感どころか、きちんとその趣旨を説明すれば、むしろメリットとして受け取られるというのが、この「抵抗感」に関する実態です。

2.家賃の減額

抵抗感の話と前後する形で、「定期借家契約をすると家賃が下がります」「相場より10%から20%ほど下げなければ決まりません」といった回答が返ってくることがあります。
そのため、大家さんとしては「確かに魅力的な契約形態ではあるが、10%や20%も家賃が下がると収益に影響してしまう。それなら収入を優先するべきではないか」と考え、導入を見送ってしまうケースがあるのです。

しかし結論から申し上げますと、一時的な賃貸を除き、一度も家賃を下げたことがありません
それどころか、物件によっては「相場が上がっているから、強気な賃料設定でいこう」としても、全く問題なく決まっているのです。

これは最初の「抵抗感」とも関連しており、その物件の趣旨をしっかり理解してもらうことが最も重要です。
それによって、むしろメリットとして受け取られるため、家賃を下げる必要は全くありません。
これが、「家賃の減額」という懸念の実際の姿です。

賃料減額については以下の記事で解説しています。
定期借家契約だと賃料が下がるって本当ですか?

3.手続きが面倒

これは不動産業者が口には出さないものの、「抵抗感がある」「家賃を下げなければ決まらない」と言う背景には、本音として「手続きが面倒だ」という気持ちがあるのです。
どういうことかと言いますと、普通借家契約と比べて、定期借家契約は確かに手続きの上で異なる部分があります。
また、普通借家契約しか扱ったことのない業者にとっては、未知の契約を自分たちの責任で行うことに強い不安を感じるのです。

しかし実際のところ、定期借家契約は普通借家契約と比べて、新規契約時に変わる点はわずか2つしかありません

1.専用の契約書

これは国土交通省から公表されているひな型や不動産業者の加盟している協会のひな型も使用できます。
国土交通省:『定期賃貸住宅標準契約書』について

主に以下の3つが明記されていることが必要です。
1.更新がないこと
2.通知期間(契約満了日の6か月前から1年前に契約が終了することを通知すること)
3.再契約を結ぶ際の条件(再契約料やその他諸費用)

2.事前説明書

契約書に「更新がなく、契約期間満了時には退去してもらう」と記載があっても、「何ページもある契約書の中に少し書いてあっただけで、それを理由に有効だというのはどうなのか」といった主張がなされる可能性があります。

そうしたトラブルを避けるために、定期借家契約を締結する際には、「この物件は定期借家であり、更新はなく、契約期間満了時には物件を明け渡していただく」という内容を、契約書とは別の書面で、事前に説明する必要があります

ただし、実はここには一つ「裏技」とも言える方法があります。
不動産業者が仲介する場合、必ず「重要事項説明書」を作成しますが、この書面に「事前説明書に記載する内容と、「重要事項説明書が事前説明書を兼ねている」という旨を記載しておけば、別途事前説明書を設ける必要がありません。(本件は通達が出ており、正確にはもう少し細かい説明がありますので、詳細は以下のURLからご確認ください)
国土交通省:定期建物賃貸借に係る事前説明におけるITの活用等について

つまり、不動産業者が定期借家契約を扱うためには、重要事項説明書と契約書の一部を修正するだけなのです。

定期借家契約の要件については以下の記事で解説しています。
定期借家で契約するにはどうしたら良いの?

4.再契約

賃貸借契約というのは、契約を結んだ時点でゴールではなく、そこからがスタートとなります。
例えば2年間という契約期間が満了する前には、新たに契約を結ぶ、つまり更新のような形で「再契約」を行う必要があります。

ここで、再契約に関連する注意事項は3つあります。

1.再契約の概念

非常に重要なのは、最初の定期借家契約と、次に結ぶ定期借家契約とは、全くの別物の契約になるということです。
つまり、再契約というのは、更新のように元の契約を延長するイメージではなく、あくまで新たな契約を結ぶという認識が必要です。

なぜそのような認識が必要かと申しますと、まず法律上の要件があるからです。
先ほど説明した事前説明書のとおり、この物件は定期借家契約であり、更新がないことを、対面による口頭説明、またはテレビ電話などの方法で必ず説明しなければなりません。

ところが、業者によっては郵送だけでやり取りを行うケースがあります。
これは実際のところ、裁判になってみないと結論が出ない部分でもありますが、法律上の要件から見れば、郵送のみで説明を省略するのは原則として認められません。

この点に関しては以下の記事で詳しく解説しています。
定期借家契約の「再契約」で気を付けるトラブルとは?

2.原状回復

普通借家の場合は、何回更新しても最初の契約を締結した時点が「原状」ですが、定期借家の場合は再契約時の始期が「原状」になってしまいます
しかし、大家側としては、再契約時点の状態ではなく、最初の契約開始時点、つまり入居当初の状態に戻してほしいと考えるのが通常です。
したがって、再契約を行う場合には、「入居者が住み始めた時点からの原状回復を行う」といった特約を契約書に明記しておく必要があります

私の使用している特約を汎用性のある内容に修正したものは以下となります。
「再契約をした場合は、借主が本物件の占有を開始した賃貸借契約(以下、「原契約」という。)締結時に預託した敷金を承継するものとする。なお、借主の本契約における原状回復は、原契約の契約期間の開始日から再契約にかかる契約期間が満了する日までの範囲とする。」

3.保証会社(家賃保証会社)

連帯保証人の代わりに借主が加入するものです。
以前は「更新料(普通借家)は保証するが、再契約料(定期借家)は保証しない」という取り扱いをしていた会社も少なくありませんでした。

したがって、定期借家契約を行う場合には、事前に保証会社、または保証会社を紹介している不動産業者に対し、「再契約料も保証の対象となりますか」と確認しておく必要があります。

もし保証会社が再契約料を保証しないという契約内容である場合には、保証会社と交渉することによって、再契約料を更新料と同一のものとみなすという特約を特別に入れてくれるケースがあります
実際に、弊社がお付き合いしている大手の保証会社では、弊社専用の書式が用意されており、そこには再契約料や再契約の事務手数料を、更新料や更新の事務手数料と同様に扱う旨の特約が盛り込まれています。
そのため、これらの点についてもきちんとフォローされるようになっています。

このように、再契約を前提とする場合でも、少しの手当をしておくことで、通常の契約と金銭的に何ら変わりなく運用することが可能になります

5.終了通知

できれば、再契約を繰り返して長く住んでいただき、借主がご自身の事情でお引越しされるという形が、賃貸経営としては理想的です。
しかし、極めて稀に、何らかのトラブルが発生する場合もあります。
一度や二度のトラブルであれば、注意喚起や事情の確認を行い、適切な対応によって解消するよう努めたいと考えていますが、どうしても今後契約を存続させるのが難しいと判断せざるを得ないケースも生じることがあります。

私自身、これまで多くの物件に関与してまいりましたが、実際に定期借家契約を期間満了によって終了させ、お引越しをお願いしたケースもいくつかあります。
そのような場合に契約を終了させるためには、終了通知が必要になります。

終了通知の必要な理由

定期借家契約において、期間満了の6か月前から1年前までの間、すなわちこの6か月の間に「契約は終了するため、明け渡してください」という旨を通知する必要があります

ただし、厳密に申し上げますと、この通知をしなくてもよい場合もあります。
法律上の要件では、「この6か月前から1年前までの間に通知をすることによって、契約の終了を”対抗”することができる」と記されています。
この「”対抗”することができる」という文言が重要なポイントです。
「契約を終了することができる」とは書かれておらず、「終了を対抗できる」とされているのです。

つまり、定期借家契約を締結しておけば、例えば2年間の契約期間を定めた場合、その期間の満了時点で契約自体は終了します。
ただし、「契約が終了した」ということに強制力を持たせられるか、これが終了通知の持つ大きな意味なのです。

例えば、期間満了時に借主が「分かりました」と素直に了承してくれれば、そのまま契約は終了し、お引越しをお願いすることができます。
しかし、仮に借主が「嫌だ」「出て行きたくない」「ここに住み続けたい」と主張された場合には、「定期借家契約は期間満了により終了しています」と”対抗”するための要件として、この終了通知が必要となるのです。

終了通知の出し方

後から「受け取っていない」「受け取った書類が別のものだった」といった紛争が生じることを避けるため、原則として内容証明を送るのが望ましいと考えられています。
しかし、定期借家の終了通知や普通借家での立ち退き交渉、家賃の増額交渉など、こうした交渉ごとにいきなり書面を送りつけるというのは、攻撃的な印象を与えます
そうすると、相手は当然ながら気分を害します。

特に書面というのは冷たく感じられやすいものです。例えば、口頭で冗談を言われたことは笑い飛ばせても、メールやLINEで送られてくると印象が全く異なります。ビックリマークや絵文字などがあればまだ柔らかく感じられますが、そういったものもなく淡々とした文面で届くと、相手は非常にカチンとくるのです。

これは不動産実務においても共通するところがあり、最初に書面だけを送ってしまうと、非常に攻撃的な印象を与えてしまいます。私が特に大切にしているのは、本当に終了させる場合の終了通知や立ち退き交渉、家賃の増額交渉といった重要な局面では、まず借主と何らかの形で直接話をする機会を設けることです。

理想は対面でお話しすることですが、テレビ電話や電話でも良いので、何らかの方法でしっかりコミュニケーションを取ることが重要です。
そのうえで、「このあと正式な書面を送付いたしますが、あらかじめお伝えしたとおり、引っ越しに向けてご協力をお願いしたい」と口頭で伝えた後に、終了通知を出すことが重要です。

また、内容証明は確実に通知を行う場合には必要ですが、相手がその場で「仕方ないですね」「わかりました」「いつまでに引っ越します」といった合意を示した場合には、私の実務的な感覚としては、必ずしも内容証明である必要はありません

そのような場合には、例えば書面を手渡しする、あるいは書面の文面や封筒に入れてポストへ投函する様子を動画で撮影しておく、そういった方法でも証拠になります

それは、どこまでリスクを許容するのかという問題になると思います。それはそれぞれの判断によるところですが、いずれにしても終了を確実にし、明け渡しを求めるためには、この終了通知は必ず必要になります。

終了通知については以下の記事で詳しく解説しています。
定期借家契約を終了させて明渡しを求めるには?

再契約時に終了通知は必要なのか

再契約を求める場合に終了通知を出すべきか否かという問題もあります。
相手方が法律に詳しい方(不動産業者や法律に関わる士業の方等)である場合、あるいは少し不安のある相手の場合には、私は終了通知を出すようにしています。

一方で、普通に再契約を行う相手方には、私はあえて終了通知を出さないようにしています。
ここから先は、大家さんと不動産業者がどのように考えるかによりますが、私があえて出さない理由があります。

終了通知を出さない理由

再契約を締結すれば、その前の契約は終了します。再契約をしていただける場合には問題ありません。
また、あえて出さないのは「大家さんの暴走を防ぐ」という意味合いもあるのです。

というのも、もし終了通知を出してしまい、極端な例として契約満期の1か月前になって大家さんが「やはり再契約せずに出てほしい」と言ってしまうと、それが有効になってしまうのです。

これは、法律の趣旨に反することになります。本来、6か月前から1年前までに通知するように定められているのは、借主が引っ越しを行うにあたって、少なくとも半年程度の期間が必要であるという考えに基づくものです。
新しい物件を探したり、引っ越し準備をしたりするには時間がかかるため、せめて半年間は猶予を与えましょうというのが法律の趣旨です。

したがって、満期の1か月前など直前の時期に、信頼関係が維持できないような理由が生じた場合には、そこから終了通知を出して明け渡しをお願いする方が、むしろ健全であると私は考えています

契約満了の6か月前を過ぎた状態から終了通知を出した場合

契約満了の6か月前には再契約するつもりで、終了通知は出していなかったが、それ以降に何等かの重大なトラブルが発生して、やっぱり終了させたいと思った場合はどうすれば良いのでしょうか。

その場合、終了通知を出したときから6か月後に契約の終了を対抗できる、という裁判例があります。
実際に、私も同様のケースで終了通知を行って退去していただいた事例もあります。

再契約するつもりだが終了通知を出す場合の留意点

再契約する予定で終了通知を出す場合、実務上は「再契約をする意向です」という一筆を添えます。
しかし、これを省略して終了通知の文面だけをいきなり送付すると、先ほどもお話ししたように、相手に強い抵抗感を与えてしまいます。

「本当に再契約の意向があるのか」「この書面の意味は何なのか」と不安に思われたり、あまり良い印象を与えないおそれがあるのです。

再契約時における終了通知の取り扱いについては以下の記事で解説しています。
定期借家の再契約を行う際も必ず「終了通知」は必要なのか?

事例の紹介

定期借家契約を活用して退去をお願いした事例は以下の記事で紹介しています。
①深夜の壁ドンや奇声で明け渡しを求めた事例
②警察沙汰になって明け渡しを求めた事例

さいごに

定期借家契約というのは今後ますます普及していくものだと私は思います。
また、大家さん自身が積極的に定期借家契約を活用できるように、場合によってはご自身で直接契約するという方法もあり得ますし、不動産業者としっかり連携をとりながら定期借家契約を取り入れていくことも考えられます。
どうしても理解を得られない場合には、不動産業者を変更するという選択肢も出てくるかもしれません。

いずれにしても、安心して賃貸経営を行うためには、定期借家契約は非常に重要であると考えます。
ちなみに、大手法人との契約の場合は、社宅規定に「定期借家契約の物件は不可」と明記されていることが極めて多いです。
そのような場合には、入居希望者の人柄をしっかり確認し、この方であれば問題なくお住まいいただけそうだと判断したうえで、ご入居いただく必要があります。その時だけは普通借家契約で契約を行うようにしています。

一方で、個人の方や中小規模の法人などから「普通借家契約で契約したい」と言われた場合には、ぜひお断りしていただきたいと思います。そうした質問をしてくる時点で、何らかの意図がある可能性が高く、入居後にトラブルが発生するリスクがあるからです。
もちろん、空室期間の長さや大家さんの考え方など、総合的な判断による部分もありますが、私はそのような申し出はお断りした方が良いと考えています。

ぜひ今回の内容を参考にしていただき、定期借家契約に対する理解を深め、安心して賃貸経営を行っていただければと思います。

ありがとうございました。

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