賃貸トラブルの防止や対策として定期借家契約を採用する大家さんや不動産会社は徐々に増えてきています。
定期借家契約についてはこちらの記事で解説しています。
賃貸トラブルの予防に必須な「定期借家契約」とは?
実務上は、定期借家契約であることを理解してご入居いただく方が問題を起こすケースは極めて少ないですが、万が一不良入居者だった場合や、入居後に近隣へ迷惑を掛けてしまうようになってしまった場合は、定期借家契約の終了により明け渡してもらうことを検討する必要があります。
明け渡してもらうためには、ただ契約期間の満了を待っていれば良いという訳ではなく、所定の手続きと注意点があります。
契約満了の6か月前から1年前に行う終了通知
契約期間が1年以上の定期借家契約の契約終了を“対抗”するためには契約満了の6か月前から1年前に「終了通知」を借主に送達させる必要があります。
ちなみに、契約期間が1年未満の場合は「終了通知」は不要となります。
例えば、2022年4月1日を始期として2年間の定期借家契約を締結した場合、2023年3月31日から2023年9月30日までの間に終了通知を借主に送達させる必要があります。
終了通知の雛形は国土交通省が公開しています。
国土交通省「定期賃貸住宅標準契約書」関係様式のダウンロード
せっかく定期借家契約で締結し、不良入居者だったことが発覚して期間満了で契約を終了させたいと思っていたら、終了通知を出しておらず借主に明渡しを拒まれてしまうというケースがあります。
大家さんとしては「定期借家契約で締結しておけば良いんでしょ!?」という認識の方もいらっしゃいますが、契約終了を“対抗”するためには「終了通知」が必要となります。
もし「この入居者さんは周りに迷惑ばかり掛けてしまうから再契約したくない・・・」と思った場合は、必ず「終了通知」を出してから契約満了までに明渡ししてもらうよう請求しましょう。
ちなみに、もし契約満了の6か月前を過ぎてから「やっぱり迷惑行為が多いから再契約したくない」と思った場合は、「終了通知」を送達してから最短で6か月後に契約が終了することを“対抗”でき、私も同様の対応をしたことがあります。
過去には契約期間満了後に終了通知を出して、契約終了を“対抗”することが認められた判例もあります。
公益社団法人不動産流通推進センターでは、類似の相談に関する回答と参考判例を紹介しています。
定期建物賃貸借契約の期間満了後の終了通知の有効性
契約終了を“対抗”できるとはどういうこと?
ちなみに、先ほどから「契約が終了させるためには」ではなく、「契約終了を”対抗”するためには」「契約が終了することを”対抗”でき」と表現しているのには大きな理由があります。
終了通知を出さなくても契約自体は終了するので、借主が反抗しなければ問題ありません。
しかし、借主が反抗した場合は「契約が終了したから明け渡してくれ!」と“対抗”できないのが、法律の主旨だからです。
つまり、借主から何も言われなければ契約は終了するが、「終了通知」を出していない状態で反抗されれば契約は終了せず、明け渡しを求めることができない、ということです。
微妙な違いではあるのですが、「終了通知を出さないと定期借家契約は終了しない」という訳ではないことを理解しておきましょう。
「終了通知」は「内容証明郵便」が一般的
契約を終了させて明渡しを希望するとき、「内容証明郵便」で終了通知を行うのが一般的です。
普通郵便では届いたことの立証が難しく、レターパックではどのような内容の書面を送ったのか立証が難しいため、その両方を立証するために内容証明郵便を使用します。
内容証明郵便の場合は、一定の要件を満たした書面を作成する必要がありますので、詳しくはこちらの記事で解説します。
書式の雛形をダウンロードできますので参考になさってください。
賃貸管理で「内容証明」が必要なときは?
また、好ましい対応ではありませんが、私は借主との関係性が良好で、紛争に生じる可能性が低いと考えている場合は、「対面で手渡し」による終了通知を行うこともあります。
内容証明郵便は紛争が生じた際に効力を発揮しますが、受け取った相手には攻撃的な印象を与えてしまうため、反発が生じる可能性があるからです。
借主との関係性が良好で、事情を説明すれば理解して退去してくれる一定の期待があれば「対面で手渡し」で終了通知を行い、その旨を記録しておきましょう。
もし対面時に揉めてしまった場合は後日内容証明郵便で送ることも検討します。
もし終了通知を行って借主から反発されたら
大家さんとして一つ理解しておかなければいけないことがあります。
不動産会社が代理人となり終了通知を行い、借主がスムーズに承諾してくれれば問題ありませんが、「俺は出て行かないからな!」等と退去を拒んでいる場合は弁護士等に依頼しましょう。
借主が明渡しを拒んでいる状態で不動産会社が明渡しの交渉を行うと、不動産会社は「非弁行為」とみなされて弁護士法違反となる可能性があるからです。
非弁行為(弁護士法違反)に関しては以下の記事を参考にしてください。
大家さん必見!実はNGな不動産会社の「非弁行為」
大家さんご自身が交渉すれば非弁活動にはなりませんが、大きな心理的ストレスが掛かりますし、それをキッカケに様々なトラブルが生まれてしまう可能性があるため、紛争性のある交渉事は専門家に依頼しましょう。
契約終了日までに明け渡してもらう
無事に終了通知を受理してもらい、退去に関して合意が得られたら、契約終了までの間に明け渡してもらいます。
その際、実際の契約終了日はどのタイミングにするかを決める必要があります。
選択肢は様々ありますが、私は契約終了日までに明け渡してもらうことを前提とし、「明け渡し日」を契約終了日として対応することが多いです。
そのやり方が正しいかどうかは別として、退去要請をしているのは貸主側なので、ある程度の譲歩をした方が明け渡しは円滑に進められ、原状回復の清算も行いやすくなるためです。
最後に
定期借家契約を終了させて明け渡しを求めるには、契約満了の6か月前から1年前に終了通知を行い、明け渡してもらうだけなので、難しい手続きが必要になる訳ではありません。
しかし、契約が終了したからといって、居座られた際に勝手に鍵を交換したり、家財を出してしまったり、大家さんが自身で強制的に退去させることはできません。
そのような行為を「自力救済」と呼び、法律で禁止されています。
そのような事態を避けるため、借主とはなるべく喧嘩にならないことが重要なので、なるべく円満に近い状態で明け渡ししてもらえることを目指して対応していく必要があります。
更に言えば、明け渡しを求めなくても良いように、適切な審査で悪質な方の入居を未然に防ぎ、普段から賃貸トラブルが発生しないよう未然防止に努めることがもっと重要です。
ご愛読いただきありがとうございました。