前回は「約款解説:反社会的勢力」ということで、国土交通省のホームページで掲載されている「賃貸住宅標準契約書」を例として、第7条に記載されている反社会的勢力の排除に関する条文の解説を行いました。
不動産業者でも契約約款に記載されている一文がどのような意味で、そのような場面のトラブルを抑止するために記載され、どのような場面で用いられるのかを理解していないケースが非常に多いため、実務をイメージして第8条の解説を行います。
第8条(禁止又は制限される行為)
乙は、甲の書面による承諾を得ることなく、本物件の全部又は一部につき、賃借権を譲渡し、又は転貸してはならない。
2 乙は、甲の書面による承諾を得ることなく、本物件の増築、改築、移転、改造若しくは模様替又は本物件の敷地内における工作物の設置を行ってはならない。
3 乙は、本物件の使用に当たり、別表第1に掲げる行為を行ってはならない。
4 乙は、本物件の使用に当たり、甲の書面による承諾を得ることなく、別表第2に掲げる行為を行ってはならない。
5 乙は、本物件の使用に当たり、別表第3に掲げる行為を行う場合には、甲に通知しなければならない。
別表第1(第8条第3項関係)
一 銃砲、刀剣類又は爆発性、発火性を有する危険な物品等を製造又は保管すること。
二 大型の金庫その他の重量の大きな物品等を搬入し、又は備え付けること。
三 排水管を腐食させるおそれのある液体を流すこと。
四 大音量でテレビ、ステレオ等の操作、ピアノ等の演奏を行うこと。
五 猛獣、毒蛇等の明らかに近隣に迷惑をかける動物を飼育すること。
六 本物件を、反社会的勢力の事務所その他の活動の拠点に供すること。
七 本物件又は本物件の周辺において、著しく粗野若しくは乱暴な言動を行い、又は威勢を示すことにより、付近の住民又は通行人に不安を覚えさせること。
八 本物件に反社会的勢力を居住させ、又は反復継続して反社会的勢力を出入りさせること。
別表第2(第8条第4項関係)
一 階段、廊下等の共用部分に物品を置くこと。
二 階段、廊下等の共用部分に看板、ポスター等の広告物を掲示すること。
三 観賞用の小鳥、魚等であって明らかに近隣に迷惑をかけるおそれのない動物以外の犬、猫等の動物(別表第1第五号に掲げる動物を除く。)を飼育すること。
別表第3(第8条第5項関係)
一 頭書(5)に記載する同居人に新たな同居人を追加(出生を除く。)すること。
二 1か月以上継続して本物件を留守にすること。
「本物件」とだけ書いておけばいいように思いますが、なぜ「本物件の全部又は一部」と細かく書いているのでしょうか。
例えば、2LDKのうち、1部屋だけ第三者に転貸してしまう、2階建ての戸建てであれば、1階だけ転貸するということも物理的には可能です。
もしそのような事態が起きてしまうと、知らない人が物件内に出入りすることとなり、維持管理に影響を及ぼします。
また、借主(転借人ではない)が不良入居者で解約となった場合、債務不履行による解約であれば問題ありませんが、期間満了により契約終了となる場合や合意解約となった場合はすぐに転借人に対して明渡を求められないため、厄介なことになります。
それらを防ぐためにこのような条項を定めています。
床面積が増えるような改造を行うことです。
床面積に変更が生じないように、構造体(主に壁や柱)に変更を加えるような改造を行うことです。リノベーションがこれに該当します。
ちなみに、「リフォームとリノベーションの違い」について曖昧な認識をしている方が非常に多く見られます。リフォームはクロスや床材の貼り替え、キッチンやユニットバス、洗面台、トイレなどの設備交換といった、表面上の改造=リフォームとなります。
リノベーションは前記の通り、構造体に変更を加えることを指しますので、リノベーションの例では2DKの一室とDKの壁を撤去して1LDKに変更したり、2LDKの壁を全て撤去してワンルームにしたりすることです。
建物を運べる大きさまで解体して場所を変えて復元したり、建物をそのまま基礎と切り離して別の場所に移動したりすることです。一般的には「移築(いちく)」と呼ばれています。
クロスの貼り替えや床材の貼り替えを行うことです。
小屋を建てたり、塀を造ったりすることを指しています。
基本的には銃刀法違反となるため当然に禁止ですが、中には狩猟やライフル射撃競技、居合などにより許可を得て所持しているケースもあります。
その場合にはかえって素性が明らかなケースが多いため、トラブルに発展する可能性は低いですが、念のため許可証を確認して特約事項に保管を容認する条文を追記しておきましょう。
大型の金庫やグランドピアノなどの重量の大きなものを想定した床の仕様にしていないと、床の凹みや床鳴りが発生する可能性があり、最悪の場合には床が抜けてしまう可能性もあります。
物件の維持管理を考えると、共用部分への私物の放置はまず取り組むべき問題で、「割れ窓理論」と同様のことがいえます。
割れ窓理論とは、建物の窓が割れているのを放置すると、住民のモラルが徐々に低下していき、犯罪が多発するようになってしまうという理論です。
私の経験上、賃貸トラブルや家賃滞納などが多発している物件は、決まって共用部分に私物が放置されていたり、廊下や階段が清掃されていなかったりするケースが非常に多いです。
共用部分に何も置かせないというほど厳格にするかどうかは別として、明らかに使われていない傘やトランクケース、水槽、植栽などは見つけたらすぐに対処するようにし、それ以前に契約時にしっかり説明して未然防止することが重要です。
別表には
と記載されています。裏を返せば、「犬や猫以外であれば飼っても良い」と捉えられます。
しかし、熱帯魚も大型水槽になると重量が非常に大きく、漏水によって被害を及ぼす可能性もあります。また、小鳥も鳴き声や糞尿の臭いによりトラブルになる可能性もあるため、一概に認めてしまうのは考え物です。
家主としてどこまで許容するのかを明確にし、その意向を契約書に反映させる必要があります。
まず、第8条5項には以下のように記載されています。
この条文であれば、別表第3に書いてあることは通知さえすればしてもいい、と解釈できます。また、別表第3の一には以下のように記載されています。
ということは、友達とのルームシェアや親戚一同での大人数の入居も通知さえすれば実現できるということになってしまいます。
実務的にどこまでやるかは別にしても、契約上は同居人の追加をする場合は書面での承諾が必要としておくことを推奨しています。そうすることで、契約条文の抜け道をくぐられる心配がなくなります。
参考までに、私は以下のような条項を加えています。(本記事執筆時点)
禁止事項
乙又は入居者に警察の介入を生じさせる行為があること。
本物件を、危険薬物の販売等の用に供すること。
本物件を、特殊詐欺の用に供すること。
本物件敷地内の機械室、その他立ち入り禁止場所及び危険な場所に立ち入ること。
共用部分を故意又は重過失により破損及び汚損すること。
書面による承諾を得る事項
表札、郵便受け等に乙又は入居者以外の名義を表示すること。
本物件の鍵の追加設置、交換及び複製。
以上のように、契約約款はどのような解釈が生まれ、どのようにアレンジしていく必要があるのかを検討していくことが重要です。
ご愛読いただきありがとうございました。