私は暗記物が苦手で、不動産取引に関わる法律も「なぜ必要なのか」「どういった場面で登場するものなのか」を理解しないとイマイチ頭に入ってきません。
宅建(宅地建物取引士)を合格した際も、普通ならテキストを読んで過去問を解いて、模試試験を受けて、受験直前は暗記して・・・というのが大道かと思います。しかし、私は「この法律はどこで実際に使われているのか」「この税制をかいくぐるにはどのようなスキームがあり得るのか」など、実務に当てはめて学んだ結果、合格ラインを大幅に超えて合格し、今も宅建の内容が実務に活きています。
そして、前職の宅建を持っている部下に「この法律はどういう場面で出てくると想定されると思う?」とか、「こういったことが起こると何でマズいと思う?」と質問しても、具体的な回答があまり出てきません。
資格というのは「その資格が求める専門知識を保有している証」となりますが、本来は合格することに意味があるのではなく、合格できるレベルにまで知識を持ち、内容を理解していることが望まれます。
私の尊敬する人が言った言葉が今でも鮮明に覚えています。
その言葉を贈ってくれた人は三大国家資格の公認会計士さんです。
話が逸れましたが、これは賃貸借契約で用いる「契約約款」でも同じことが言えます。不動産業者でも契約約款に記載されている一文がどのような意味で、そのような場面のトラブルを抑止するために記載され、どのような場面で用いられるのかを理解していないケースが非常に多いです。
それは不動産取引のプロである不動産業者でさえ、そのような状態なので、家主様はもっと分からないというのは全く不思議ではなく、私が接してきた家主様の中で契約条文を完全に理解している方は一握りでした。
今回から国土交通省のホームページで掲載されている「賃貸住宅標準契約書」を例として、1条毎にどのような意味・背景・場面があるのかを独自の視点で解説していきたいと思います。
第1条(契約の締結)
冒頭で「(契約の締結)」と出てきました。冷静に考えると「契約書に判子押すんだから、いちいちそんなこと書かなくていいんじゃないの?」と感じますが、実は意味があるのです。
本来、賃貸借契約は「諾成契約(だくせいけいやく)」で成立します。諾成契約とは、簡単に言うと口約束でも成立するということです。例えば、
極端な話、これで賃貸借契約は成立です。
しかし、もしBさんの都合が変わり、
と言われてしまえば、本当に賃貸借契約が成立していたのかどうかハッキリしなくなってしまいます。その後、喧嘩が発生し、弁護士が登場し、最終的に裁判に発展する、ということが考えられます。
そのため、「契約の締結」と明確に記した物へ署名捺印することで、後から契約が成立したか否かというトラブルを抑止する効果があります。
余談ですが、「署名捺印」と「記名押印」は混同している方がいますが、意味が異なります。
という意味です。
つまり、「署名押印」や「記名捺印」だと意味は伝わりますが、あまり正しい表現とは言えませんので気を付けましょう。
長くなってしまうため、次回は第1条の
②甲と乙
③(以下「●●」という。)
④以下の条項により賃貸借契約を締結した。
についてお伝えしたいと思います。
ご愛読いただきありがとうございました。