賃貸管理を行う上では様々なトラブル対応が発生しますが、新型コロナウィルスの蔓延により多く発生したのは「音」に関するトラブルでした。
在宅ワークや飲み会の減少により、宅内で過ごす時間が以前より圧倒的に増え、仕事への影響や気分転換の出来ない環境からストレスを抱える方が増えました。
そして、騒音を発生させてしまう、ストレスから敏感になって騒音と感じてしまう、あるいはその両方が重なってしまうこともありました。
しかし、騒音トラブルは解決するのが難しい傾向にあります。
本当に騒音が発生しているのか、あるいは苦情元が敏感になっているだけなのかが判断が付き辛いからです。
また、安易な対応を行うとかえってトラブルになる可能性もあり、頭を悩ませる家主や賃貸管理会社の担当者は多いです。
今回は、騒音トラブルを揉めずに解決する5つの流れについて解説します。
①まずは苦情内容をしっかりとヒアリングする
賃貸管理会社の対応で多く見られるのが、「上の人の足音がうるさい」「隣のテレビの音がうるさい」とクレームが来た際、
その該当世帯へ「下階の人から足音がうるさいとクレームが来ているので注意してください」「テレビの音を小さくしてください」といきなり注意喚起してしまうことですが、それは避けましょう。
そのような安易な対応を行うと、そもそも発生元が違う、「騒音」と呼べるレベルではない、いきなり注意されて怒ってしまうなど、解決するどころか揉めてしまうケースがあります。
まずは何日の何時頃、どのくらいの時間、どのような音が聞こえてきたのかなど、詳細をヒアリングして状況を把握することが重要です。
その上で、発生頻度によって以下のような対応を行います。
■1回だけ:まずは様子を見てもらい、次に発生した際は状況を記録し、再度連絡をもらうよう依頼しましょう。
■複数回以上:この場合はいきなり「注意喚起」ではなく、まずは「隣接世帯への聞き込み」を行いましょう。
②隣接世帯への聞き込みを行う
「音」はどこから発生しているのか判断するのが非常に難しく、真上かと思ったら隣だった、隣かと思ったら真下だったなど、様々です。
また、「騒音」というのは人によって感じ方も違いますので、いきなり注意されると「あのくらいで!?」と不快に感じる人もいます。
そもそも自分の音がどのくらい周りに響いているか分からない、あるいは本人は響いていないと思っているケースもあります。
例えば以下のように、まずは誰か分からないというスタンスで、隣接世帯に聞き込みを行います。
心当たりのある本人は「僕はその時間はもう寝ていました」などと回答するかもしれませんが、心の中では「ヤバい、昨日の宴会は周りに結構響いてたんだな・・・今後は気を付けよう」と再発しなくなることが多いです。
このように、明確に注意せずに本人の意思で控えてもらうことがとても重要です。
③注意喚起文を投函・掲示する
もし隣接世帯への聞き込みでも解消されない場合は、注意喚起文を投函・掲示します。
その際も、あくまで宛名は「ご入居の皆様へ」と該当世帯を特定しないようにしましょう。
私が過去に対応した事例で、以下の注意喚起文を投函したら無事に解決しました。
~~~本文~~~
平素は●●(物件名)の良好な管理維持にご協力を賜り、厚く御礼申し上げます。
さて、昨今のコロナウィルス蔓延により緊急事態宣言が発令し、外出自粛(ステイホーム)によってご自宅内で過ごされることが多くなり、これまでになかったストレスも抱えるようになっていることと思います。一刻も早く収束し、元の日常に戻ることを願うばかりです。そんな中で今回お願いの文書を投函することは大変気が引けるのですが、更なる良好な管理維持に努めるべく投函させていただいたことをご理解いただければ幸いでございます。
最近、本建物内で夜間に「俺の金で飲んでる酒だ!」「こっち来いコノヤロー!」といった大きな怒鳴り声が聞こえることがあり、恐怖と不安を感じているというお声が寄せられました。
コロナウィルスにより仕事へ多大な影響が出ており、外出自粛によるストレス発散の場所が少なくなっている状況では、怒鳴りたくなる気持ちも重々理解できます。普段怒鳴ることのない方も自宅での飲酒量も増えて酔った勢いでということも想像できます。
その上で、集合住宅では様々な方が同じ建物内にお住まいいただいており、同じような境遇の中で我慢していらっしゃる方もいるため、お互いに配慮を持ちながら生活していただけることをご協力いただければ幸いです。
皆様で気持ちよくお住まいいただくためのお願いとなりますので、ご理解、ご協力のほど宜しくお願い申し上げます。
~~~以上~~~
ここで重要なことは、「相手への配慮」を示すことです。
トラブル対応ではこの一点に尽きると言っても過言ではありません
④苦情元のお部屋に訪問して騒音の状況確認
もし隣接住戸への聞き込みや注意喚起文の掲示・投函でも改善が見られない場合は、騒音の発生しやすい時間帯に訪問し、一緒に音を確認することです。
私は入居者から了承が得られれば早朝5時でも夜22時以降でも音の出やすい時間帯に訪問します。
理由は2つあり、1つはこの段階で解決しないと後の対応がかえって大変になっていき、トラブルが拡大していくためです。
もう1つは、対応している「姿勢」を見せることによって、苦情元の入居者の理解が得られ、仮に騒音が全て解消しなかったとしても、それ以上トラブルにならなくなることが多いからです。
⑤騒音元に注意喚起
もし訪問しているときに騒音が確認できたら、そのまま騒音元の世帯に訪問して注意喚起しましょう。
その際、「●●さんの世帯から足音がうるさいので静かにしてください」と単刀直入に注意するのはNGです。
重要なことは、「たまたま発見したことにする」「相手への配慮」「客観的にどう感じたか」の3つを充分に示すことです。
例えば、上階の子供の足音が原因だった場合は以下のように伝えます。
また、苦情を出した方には以下のように対応結果を報告します。
苦情を出した方は大体感情が高ぶっていますので、家主や賃貸管理会社に対して「騒音元に制裁を加えてほしい」と少なからず考えています。
どのような対応を行ったかに関わらず、「厳しく注意した」ということを伝えると気持ちが多少落ち着きます。
それでも解決しないときは
本当に騒音が発生していた場合は、以上の流れで解決できるケースがほとんどです。
しかし、騒音トラブルの大半は、本当の騒音ではなく通常の生活音に対して過敏に反応しているパターンです。
その場合は早朝や夜などに2~3回足を運んで、解決したい姿勢を示すことで、「ここまでやってくれて解決できないなら自分が我慢するしかないか・・・」と諦めてくれるケースが多いです。
それでも苦情が続くようであれば、状況によって「大変申し訳ないのですが、これまで確認した音の状況であれば通常の生活音の範囲内と判断せざるを得ないので、これ以上は対応できません」と断ることも必要です。
反対に、本当に騒音が発生していて、上記の対応を行っても解決しない場合は、状況によって契約解除や更新拒絶を検討することも一考です。
しかし、注意されても改善しない入居者であれば、交渉が難航する可能性は極めて高いです。
賃貸トラブルは事後対応よりも未然防止が非常に重要です。
そのためには、入居審査で神経質な方は見送る、ある程度の物音は聞こえてくる可能性が十分あることを事前に伝えて理解を得ておく、定期借家契約を採用するなど、様々な対策を行うことで騒音トラブルは未然に防ぐことができます。
参考記事はこちらです。
賃貸トラブルの予防に必須な「定期借家契約」とは?
騒音トラブルが発生した際は、ぜひ上記の5つの流れを実践してみましょう。
ご愛読いただきありがとうございました。