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賃貸オーナーが知っておきたい「不動産鑑定評価」

最新更新日 2026年04月12日
執筆:宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士 三好 貴大

「不動産鑑定評価」と聞いても、「自分には関係なさそう」と感じる賃貸オーナーがほとんどかと思います。

確かに、普段は関わる機会は少ないのが実情ですが、意外にも大事な場面で関わることがあります。
予め、どのようなものなのか、どのような場面で関わることがあるのか、知っておくことはとても重要です。

今回は、賃貸オーナーには知っておいて欲しい「不動産鑑定評価」の基本について解説します。

不動産鑑定評価の対象になるもの

不動産鑑定評価の対象となるものは多岐にわたりますが、賃貸オーナーや不動産オーナーに特に関係するものとしては、主に次のようなものがあります。

・売買価格
・借地権価格
・借家権価格
・賃料

つまり、不動産そのものの価格だけではなく、その不動産に付随する権利や、賃料についても鑑定評価の対象になるということです。

鑑定評価額=相場なのか?

ここで大事なのは、不動産鑑定評価は「実際にいくらで売れるか」「本当にその金額で決まるか」を保証するものではない、という点です。
なぜなら、不動産鑑定では「相場」そのものではなく、理論上の妥当額を評価するからです

例えば、鑑定評価で算出された金額があるとして、それが必ずそのまま市場で通用するとは限りません。
実際の売買価格や賃料は、最終的には買いたい人、借りたい人が現れて初めて成立するものです。
そのため、現実の取引価格は、鑑定評価額より高くなることもあれば、逆に低くなることもあります。

不動産鑑定評価とは、簡単に言えば、理論に基づいて合理的に考えたとき、このくらいが妥当でしょうという金額を示すものです。

そのため、特に裁判や法的な紛争、あるいは税務上の根拠が必要な場面では非常に重視されますが、「この金額なら必ずうまくいく」「この金額が絶対的な相場である」と理解するのは適切ではありません。
まずはこの点をしっかり押さえておく必要があります。

賃貸オーナーが不動産鑑定士に依頼する代表的な場面

では、実際に売りたい、貸したいという場面では不動産会社に相談するのが一般的ですが、どのような場面で不動産鑑定士に鑑定評価の依頼を行うのでしょうか。
賃貸オーナーが依頼する代表的な場面をいくつか紹介します。

法人化の際の売買価格の算定

個人の賃貸オーナーが不動産鑑定評価を依頼する代表的な場面の一つが「法人化」です。

例えば、個人で所有している賃貸アパートや賃貸マンションを、自分で設立した法人へ移す場合があります。
実務上は、売買という形で移転することが多いのですが、このときに「いくらで売買するのか」が非常に重要になります。

当然、個人から法人へ移すのであれば、なるべく安く移したいと考える方は多いと思います。
しかし、あまりにも安い金額で売買してしまうと、本来妥当であるべき価格との差額について、税務上問題視される可能性があります。

このようなときに、不動産鑑定士へ依頼して「この価格が妥当です」という鑑定評価書を作成してもらい、その評価額をもとに売買することで、税務上のリスクを下げることができます。

もちろん、鑑定評価書があるから100%絶対に問題ないと言い切れるわけではありません。
しかし、専門家である不動産鑑定士が合理的な根拠に基づいて算出した価格であるということは、非常に大きな意味を持ちます。

そのため、法人化に伴う売買では、きちんと鑑定評価を取っておくことが、本来は望ましい対応だといえます。

賃料増額請求を行う際の賃料鑑定

もう一つ、賃貸オーナーにとって非常に関わりが深いのが、賃料増額請求の場面です。

例えば、今の賃料が相場と比べて安くなっており、賃貸オーナーとしては「このくらいまで賃料を上げたい」と考えたとします。最初は当然、借主との任意交渉から始まります。しかし、借主が応じない場合には、弁護士に依頼し、調停や訴訟へ進むことがあります。

このような場合に、弁護士が重視するのが、不動産鑑定士による鑑定評価です。

新規賃料と継続賃料

ここで非常に重要なのが、「新規賃料」と「継続賃料」はまったく別物だという点です。

新規賃料とは、空室を募集したときに、いくらで貸せるかという賃料です。
一方、継続賃料とは、すでに契約して住んでいる方に対して、現在の契約関係を前提に、いくらが妥当かを考える賃料です。

この二つは似ているようで、実務上は大きく異なります。
例えば、隣の部屋が10万円で決まったからといって、今8万円で住んでいる方に対して、いきなり10万円にしてくださいというのは、継続賃料の考え方としては適していません。

なぜなら、継続賃料を査定する際には、契約時の経緯、その後の事情、地域相場の変化、物価動向、建物の状況など、さまざまな要素を総合的に加味して判断します。そのため、ここは専門家の判断が重要になるのです。

調停・裁判に至った場合

実務では、賃貸オーナー側が鑑定評価を取ると高めの金額が出やすく、借主側が鑑定評価を取ると低めの金額が出やすい傾向があります。すると、その二つの鑑定がぶつかることになります。
なお、賃貸オーナーと借主が依頼する鑑定を「当事者鑑定」と呼びます。

さらに裁判になると、裁判所が独自に「裁判所鑑定」を依頼することもあり、これを「裁判所鑑定」と呼びます。そうすると、大家側の評価と借主側の評価の中間あたりの数字が出てくることも少なくありません。

このように、賃料増額請求では、不動産鑑定評価が非常に重要な役割を果たします。

公示価格

不動産鑑定評価というと、個別に依頼するものだけを想像しがちですが、実は私たちがニュースなどで目にする「公示価格」も、不動産鑑定士の鑑定評価に基づいています

国が一定の地点を選び、その地点について「この時点ではこのくらいの価格が妥当でしょう」という価格を不動産鑑定士が評価し、それを公表したものが公示価格です。

ニュースで「今年の公示地価は上がりました」といった報道がありますが、その背景には不動産鑑定士の評価があります。

また、公示価格は、相続税路線価や固定資産税路線価とも相関関係があります。
もちろんそのまま同じではありませんが、路線価を考える際の基準の一つになっています。

そのため、不動産鑑定評価というのは、単に裁判や個別案件だけの話ではなく、実は日常的な税務や売買の世界にも深く関わっているのです。

不動産鑑定評価の評価方式

では、不動産鑑定評価はどのような理論に基づいているのでしょうか。
これを全て理解しようとするのは難関国家資格を勉強するのと等しいのでなかなか難しいですが、大まかに「このような評価方法だ」と理解しておくのは非常に有益です。

取引事例比較法

これは、似たような不動産が実際にいくらで取引されたかを比較して、対象不動産の価格を算出する方法です。

一見すると分かりやすい方法ですが、実際には比較できる事例を集めること自体が大変です。
さらに、面積が同じでも、形状、接道状況、構造、築年数、立地が違えば、そのまま比較はできません。そこで補正をかけていく必要があるため、実務上は非常に難しい面があります。

ただ、賃料交渉の最初の段階では、「隣の部屋がこのくらいで決まっている」というような形で、比較材料として参考になることは多いです。

収益還元法

これは、収益物件の売買価格の評価で非常によく使われる方法です。

その不動産からどの程度の収益が見込めるかを前提に、一定の利回りで現在価値を逆算して価格を求める方法です。賃貸マンションやテナントビルのように、収益を生む不動産では非常に重要な考え方になります。

賃貸オーナーが保有している賃貸不動産を売却する場面では、まさにこの考え方がベースになることが多いです。

原価法

原価法は、その不動産を新たに作るとしたらいくらかかるのか、そして築年数や劣化状況に応じてどれだけ価値が減っているかを考えて、価格を算出する方法です。

賃貸オーナーの実務では、取引事例比較法や収益還元法に比べると直接意識する場面は少ないかもしれませんが、鑑定評価の一つの基本手法として知っておくとよいと思います。

賃料の鑑定で使用される評価方式

上記のうち、取引事例比較法は賃貸でも使用されますが、特に収益還元法は売買価格の鑑定ならではの理論で、原価法も賃貸オーナーとしては応用し辛いのが実情です。

しかし、これから紹介する方法は賃料鑑定に使用される評価方式であり、私自身も増額交渉に携わるときには使用している手法になります。

スライド法

これは、物価や賃料指数などの統計データをもとに、過去から現在までの変化を反映して賃料を見直す方法です。
東京都であれば、消費者物価指数の中に賃料に関する指標もありますので、そういった統計を参考にしながら算定していきます。

差額配分法(折半法)

これは、実務上かなり分かりやすい考え方です。
例えば、賃貸オーナー側の主張が高く、借主側の主張が低い場合、その中間を取るような形で妥当額を考える方法です。

もちろん実際にはもっと複雑で、単純に真ん中を取ればよいというものではありませんが、考え方としては非常に分かりやすいと思います。

例えば、今8万円で貸していて、同条件の新規賃料が10万円であれば、いきなり10万円ではなく、その間を取って9万円程度を一つの落としどころとして考えるようなイメージです。
喧嘩両成敗ではないですが、裁判でも折半法(1/2法とも呼ばれます)はよく使われる手法です。

おわりに

ここまで見てきたとおり、不動産鑑定評価は非常に重要です。
しかし、鑑定評価書があれば何でもその通りに進むというわけではありません。

賃料増額請求でも、裁判に進めば鑑定費用や弁護士費用、時間的コストがかかります。
さらに、たとえ勝ったとしても、その後の借主との関係がぎくしゃくする可能性もあります。

そのため、鑑定評価はあくまで合理的な目安として活用しつつ、実際にはどこで着地させるのがよいのか、どこが現実的な落としどころなのかを考える必要があります。
また、これらの方法を知っていれば「実際にどうなるかは分からないが、目安となる新規賃料(直近で成約した部屋の賃料)と現行賃料の間(折半法)を考えると、裁判で費用を掛けるよりも〇〇円を上げてもらえれば妥当かな」と落としどころも見えてきます。

今回解説した基本を押さえておくだけでも、いざ必要になったときに、鑑定士さん、弁護士さん、税理士さんとのやり取りがぐっとしやすくなります。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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