借地借家法の「借家」に関する規定だけを知ると、賃貸実務と比較して違和感を覚えることが少なくありません。
なぜなら、実務上では借家に関する規定を「特約」によって変更していることが多く存在するからです。
また、借地借家法の原則を理解したうえで、
・入れておくべき特約
・入れても無効となってしまう特約(ですが入れておいた方が良い特約)
などを正しく把握しておくことは、実務上とても重要です。
今回は、現場で特に問題になりやすい特約を中心に整理していきます。
本記事は、当社YouTubeチャンネルで公開している
「借地借家法~借家の特約~」
という動画の内容を、文字で整理したものです。
賃料増減額を禁止する特約
賃料を増額しない、減額しない、また普通借家契約か定期借家契約かによって、賃料増減額を禁止する特約の有効・無効は異なります。
唯一、明確に無効とされているのが、「普通借家契約+減額禁止」の特約です。
普通借家契約では、経済事情の変動などにより賃料が不相当となった場合、賃料減額請求権が借主に認められています。
これを一切封じる特約は、借主に不利となるため無効とされています。
一方で、
・賃料を増額しない特約
・定期借家契約において、契約期間中は賃料を減額しない特約
については、いずれも有効と解されています。
特に定期借家契約では、契約期間が明確に定められているため、その期間中の賃料を固定するという考え方が認められています。
自動更新特約
自動更新とは、当事者のいずれからも解約の意思表示がない場合に、契約が自動的に更新されるという特約です。
駐車場契約やトランクルーム契約では一般的に用いられています。
居住用物件や店舗、事務所など、借地借家法が適用される契約では、一般的に合意更新が採用されています。
2年や3年といった契約期間満了時に、改めて書面を交わし、当事者双方の合意により更新する形です。
しかし、合意更新を前提としている契約で、
・更新案内を出したが借主から反応がなかった
・そもそも更新手続きを失念していた
といった場合に、借主がそのまま使用を継続し、貸主側も異議を述べなければ、法定更新が成立します。
法定更新が成立すると、契約は期間の定めのない契約となります。
この場合、「契約期間ごとに更新料を支払う」という前提が崩れ、更新料の根拠が失われてしまいます。
この対策として自動更新を採用している不動産業者もいますが、借主にとってみれば何も手続きしていないのに更新料を支払うというのは抵抗感があるのは想像できます。
法定更新時の更新料相当額を設ける特約
そこで、法定更新時にも更新料を請求できるようにする特約も存在します。
一例はこちらです。
「賃借人は、本契約が法定更新された場合でも、頭書(〇)と同じ契約期間が経過する都度、賃貸人に対して更新料を支払う。」
この特約は有効と解されていますので、普通借家契約を締結する場合は必ず入れておきたいものです。
しかし、不動産関連団体の契約書式や国土交通省のひな型には、この点が考慮されていないケースも多く見受けられますので注意が必要です。
造作買取(有益費償還)請求を禁止する特約
この特約は、店舗に限らず、居住用物件でも必ず入れておくべき特約です。
これを入れておかないと、退去時に、
「エアコンを設置したので代金を支払ってほしい」
「店舗の内装(造作)を買い取ってほしい」
といった請求を受ける可能性があります。
造作買取請求権の排除は標準の契約書に大体書いてありますが、有益費償還請求権の排除は書かれていないケースも多いため注意が必要です。
入居時の鍵交換代、退去時のクリーニング代に関する特約
入居時の鍵交換代を借主負担とすることや、退去時のクリーニング代を敷金から差し引く取り扱いは、実は特約に該当します。
本来、
・鍵交換
・退去時のクリーニング代(経年劣化)
は貸主負担が原則です。
しかし、契約書上で「特約」と明示されていない場合であっても、明確に定めておくことで有効となります。
退去時クリーニング代借主負担の注意点
「退去時のルームクリーニング代は借主負担とする」とだけ記載しているケースは少なくありませんが、この表現はトラブルの原因になります。
なぜなら、エアコン清掃が含まれるのかどうかが曖昧な表現で、基本的に明記されていないものは大家さんの負担となってしまいます。
例えば、「賃借人の退去時、賃貸人が指定する専門業者による清掃(設備機器清掃及び残置物の清掃を含む)を行うものとする。」と記載しておけば、「設備機器=エアコン」も清掃の対象とすることができます。
または、具体的に「エアコン内部洗浄」と記載するのも良いでしょう。
無効となる特約
では、反対に無効となる特約の代表例はどのようなものがあるのでしょうか。
必要費・立退料請求を禁止する特約
有益費の請求を禁止することは可能ですが、
・必要費も請求できない
・立退料を請求できない
とする特約は、原則として無効です。
立退料は、正当事由が不足する場合にその不足分を補完する役割を持つため、これを一律に否定することはできません。
しかし、立退料については無効と理解したうえで、あえて契約書に記載し、交渉材料として使うケースもあります。
裁判では無効となりますが、初期交渉では一定の効果を持つこともあります。
修繕義務を免除する特約
大家さんが設置した設備について、修繕義務を一切負わないとする特約は、借主に不利となるため無効です。
しかし、例外が2つあります。
残置物
前入居者が置いていった残置物については、大家の所有物ではないため、修繕義務を負わないとすることが可能です。
しかし、残置物は契約時の書類に明記しておくことが重要です。
記載がない場合、原則として設備とみなされてしまいます。
照明器具などは残置物としやすい一方で、エアコンを残置物とすると、持ち去られても文句が言えなくなる点には注意が必要です。
入居前から壊れていたもの
例えば、水の出ない暖かくなるだけの機能を持った便座ですが、壊れたまま便座として利用しているケースもあります。
このような場合、当初から壊れていることを明記しておけば、その機能を復活させる(修理や交換)必要はなくなります。
おわりに
今回は、借地借家法における借家の特約について、実務に即した視点で解説しました。
理論だけでなく、現場で「使える知識」として整理していますので、ぜひ業務に活かしていただければと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。


