前回は定期借家契約を終了させて、明渡しを求めるための方法について解説しました。
定期借家契約を終了させて明渡しを求めるには?
しかし、定期借家契約の内容を理解した上でご入居いただく方の多くは人柄が良いので、明け渡しを求めるケースは稀です。
実務上は、定期借家契約そのものは契約期間満了をもって終了し、満了日の翌日を始期とした新たな定期借家契約(再契約)を締結し、契約を数珠繋ぎにしていくイメージです。
定期借家契約の再契約時に気を付けるポイントは以下の記事で解説しています。
定期借家契約の「再契約」で気を付けるトラブルとは?
実務で定期借家契約を行い始めると、「再契約」を行う際に一つの疑問が湧いてきます。
それは、「再契約したいと思っていても、終了通知は行うべきなのか?」です。
「終了通知」については前回の記事で解説しています。
定期借家契約を終了させて明渡しを求めるには?
今回はその疑問について解説していきます。
ただし、今回の記事内容はあくまで私の考えなので、正しい対応かどうか、参考にするかどうかは各自ご判断ください。
終了通知を出す場合と出さない場合
私は、再契約を前提としている場合は終了通知を“あえて”出しません。
反対に、大家さんが契約を終了させて明渡ししてもらいたいと希望しているときは代理人として終了通知を出します。
再契約を前提としている場合に終了通知を出さない理由は2つあります。
①法律の主旨に反するモラル違反を抑止するため
例えば、終了通知を出していた場合は、契約満了の直前であっても双方の合意が成立していなければ、明け渡しを求めることが可能です。
例えば、契約満了の前日に大家さんから「やっぱり気に入らないから明け渡してくれ」と言われれば、それは正当な主張になってしまいます。
しかし、法律上で契約満了の6か月前から1年前に終了通知を出すと定めている主旨は、転居先を確保するために必要な期間を確保するためです。
私は前記のようなモラル違反が起きないようにするため、あくまで大家さんが契約終了を希望した場合は、終了通知から6か月以上の猶予期間を設けてもらうために終了通知を出していません。
②借主や入居者にマイナスの印象を与えないため
終了通知を受け取った側としては、当然に嫌な印象と共に、「どうなるか分からないから引っ越そうかな・・・」と退去意欲を促進してしまう可能性があります。
また、仮に送付状などに再契約を前提としていることを記載すると、それは契約の終了を通知したことにならないと判断されるリスクもあります。
終了通知を出さないと定期借家契約は終了しないのでは?
しかし、「終了通知を出さないと契約が終了しないから、再契約も成立しないのでは?」と質問を受けることがあります。
こちらの回答は前回の記事で伏線があったのですが、終了通知は借主から反抗された場合に“対抗”するために必要なのであって、反抗さえなければ定期借家契約は終了します。
加えて、再契約が締結された時点で前契約の終了を承諾したことにもなります。
また、「再契約料の支払いなどを延ばすために、契約終了を認めない借主もいるのでは?」と質問を受けることもありますが、私はそのような借主と会ったことはありません。
そのように反抗することで、大家さんから終了通知を出されて退去要請される可能性が出てくることを考慮すると、そのような反抗をすることは考えないでしょう。
ただ、あくまで可能性の問題なので、そのようなリスクもゼロではないと思います。
再契約する場合でも終了通知を出す場合
最後に、再契約する場合でも終了通知を行うケースについてご紹介します。
私が終了通知を推奨しているのは、主に以下の3パターンです。
借主または近しい関係者が不動産業者の場合
相手方が不動産業者の場合は、今回解説したような定期借家契約に関する知識を持っている可能性があり、金銭面でのメリットを享受するために契約終了を認めない可能性があるため、念のため終了通知を行いましょう。
その場合は、内容証明郵便だと攻撃的な印象を与えてしまうため、普通郵便や直接ポストに投函するなど、普通の送付方法で対応しましょう。
その場合は、送付する終了通知書のコピーまたはスキャンデータを保管し、郵便であればいつ郵便ポストに投函したのか記録します。
直接投函であれば、普通郵便と同様の記録に加え、自宅ポストに投函する様子を動画で撮影して保存しておきましょう。
加えて、終了通知だけを行うと心象を悪くしてしまったり、勘違いされてしまったりする可能性がありますので、一例として以下の文言を電話やメール、または送付状等に記載してお伝えするようにしましょう。
現状は再契約する方向で考えておりますが、改めて契約満了の2ヶ月前になりましたら再契約について相談させていただければと思います。
弁護士や司法書士など、法律に詳しい借主等の場合
終了通知を行う理由や通知方法は、相手方が不動産業者の場合と同様です。
不良入居者の可能性がある場合
再契約をする方向で考えているが、トラブルが起きそうな予感がしていたり、現状で何かしらのトラブルを対応していたりする場合は、念のため終了通知を出しておきましょう。
この場合の注意点は、郵送や投函のみだと心象を悪くしてトラブルの状況が悪化する恐れがありますので、できれば直接お会いして手渡しで行うことがオススメです。
あるいは、遠方や相手方が多忙で直接お会いすることができない場合は、先ほど紹介した文章をもっとまろやかにして伝えるようにしましょう。
最後に
今回解説したように、定期借家契約は法律論と実務の違いや、実務上の取り扱いなどが様々ありますので、一度採用して慣れてしまえばとても楽で大きなリスク対策に有効ですが、それまでは少し知識を収集する必要があります。
しかし、定期借家契約を採用している業者が少ないこと、不動産業界は実務の話をあまり公開しない風土もあり、知る機会が少ない印象があります。
私の記事で少しでも有益な情報を知っていただき、より良い賃貸経営の実現に向けて活かしていただければ幸いです。
もし定期借家契約に興味のある大家さん、空室にお困りの大家さんはお気軽にお問合せください。
ご愛読いただきありがとうございました。