私が携わった賃貸オーナー様とお話しする中で、「火災保険は火災が起きた時しか使えないと思っていた・・・」という方は非常に多いです。
もちろん火災が起きた時は認定される可能性が極めて高いですが、実はもっと色々な場面で活躍しますので、知っているか否かで賃貸経営の収支に大きく影響します。
今回は火災保険の活用例についてご紹介します。
そもそも火災保険とは?
一般的に賃貸オーナー様がご自身の建物に掛ける保険や借主が賃貸借契約時に加入する保険を「火災保険」と呼んでいますが、実際には火災保険という名称の保険はありません。
賃貸オーナー様が建物に掛ける保険は「損害保険」に分類され、その中の派生として建物を補償するための保険としていあゆる「火災保険」が存在します。
ちなみに、借主が掛ける保険は「家財保険」や「少額短期保険」となっていて、各社の商品名によって名称が異なるため、それらを総称として「火災保険」と呼ばれています。
火災保険が認定される可能性のあるものは?
突然ですが、以下の5つの中で火災保険により保険金が受け取れる可能性があるものはどれでしょうか?
①テレビアンテナが倒れてしまった
②雨樋が歪んで破損していた
③給水管から漏水してしまい、下階の天井や壁のクロスが剥がれてしまった
④網入りの窓ガラスにヒビが入っているのが発見された
⑤借主がドライヤーを落として洗面台を割ってしまった
例題の答え
実は、①~⑤すべて保険金が受け取れる可能性があります。
なぜ火災とは全く関係のないものでも火災保険が使えるのでしょうか?
予備知識として、保険金が受け取れるには、保険会社が保険金の対象としてその事故を「認定」する必要がありますので、以後は「認定=保険金が受け取れる」と解釈していただければと思います。
火災保険に加入する上で大事なポイント
実は火災保険と一言で言っても、契約時の条件によって全く内容が異なりますので、上記の例でもAさんは認定された、Bさんは認定されなかったということがあります。
せっかく火災保険を契約して保険料を支払うなら、なるべく様々な場面で保険金が受け取れた方がいいですよね?
そのためには大事なポイントが3つあります。
プランの選択
賃貸オーナー様が加入する火災保険には、様々なプランがありますが、今回は私が取り扱っている「あいおいニッセイ同和損保」の「タフ・すまいの保険」を例に説明します。
まずはこちらの図をご覧ください。
ざっくりと、「①②のみ」「①~⑤」「①~⑥(全部)」の3つに分かれていますね。
「①火災、落雷、破裂・爆発」はあまり発生しませんが、エアコンや給湯器の故障は落雷により認定される場合があります。
ここからが重要ですが、先ほどの例題にあった「テレビアンテナの転倒」は、もし台風や強風が要因であれば「②風災」によって認定される可能性があります。
また、雨樋の歪みの原因が台風や強風であれば「②風災」、大雪による雪の重みが原因であれば「②雪災」によって認定される可能性があります。
給水管の漏水は、原因の多くは「経年劣化」なので、給水管自体の修理費用は認定されない場合がほとんどです。
ただし、漏水原因を特定するための「調査費用」や、漏水によって発生した破損の補修費用は「③水ぬれ」により認定される可能性があります。
そして、「⑥破損・汚損等」は「不測かつ突発的」という条件が付きますので、保険会社によっては網入りの窓ガラスが熱割れによってヒビが入ってしまった場合や借主が壊してしまった洗面台も認定される可能性があります。
もう一つ重要なことは、賃貸オーナー様が加入している火災保険で認定されなかった場合でも、借主が加入する火災保険によって認定される可能性もあります。
借主が加入する火災保険には「借家人賠償責任保険」や「修理費用特約」、「個人賠償責任保険」が付いていることが多く、これらを活用することで大きく金銭的な負担や原状回復トラブルのリスクが軽減できます。
特約の付帯
火災保険を加入する際にはプランも重要ですが、実はこの特約も非常に重要です。
特約には「補償内容の追加」と「免責」の2種類があります。
「補償内容の追加」では、代表的なものとして以下の特約があります。
事故時諸費用特約
例えば100万円分の損害が発生し、満額で保険金を受け取れることになった場合、その保険金に10%~30%も多く保険金を受け取れるという特約です。
表現方法を変えれば、10%~30%も余分にもらえるので、前記の例では10万円~30万円儲かってしまうということになります。
類焼損害特約
「失火責任法(失火法)」という法律をご存じでしょうか?
明治32年から存在する法律で、意外と知られていないことがあります。
例えば、Aさんの建物が火元となってお隣のBさんの建物に火災が延焼してしまった場合、BさんはAさんに対して責任を追及することができると思いますか?
例外を除き、基本的にBさんはAさんに対して火災の責任を追及することはできません!
なぜなら、Bさんだけでも大変な損害額になってしまいますが、仮にCさん・Dさん・Fさん・・・と延焼の被害が甚大だった場合、損害額はとんでもない金額になります。
その損害額をAさんが負うことになった場合、Aさん家族は自らの命をもって・・・などの社会的に大変良くない流れができてしまう可能性があります。
そのため、火災の火元になったAさんは近隣に対して責任を負わないという法律が「失火責任法」です。
しかし、火元になったAさんは責任を負わないからといって、知らんぷりでそのまま建物を建て直して住み続けることができるでしょうか?
物理的には可能ですが、近隣からの恨みが生まれるのは間違いありません。
個人のマイホームなら引っ越せば済みますが、賃貸オーナーや地主はそう簡単に引っ越したり、建物を建て直したりする訳にもいきませんので、近隣への補償やお見舞金を渡した方が関係性の悪化を最小限に食い止めることができます。
それらの費用を補償するのが「類焼損害特約」です。
賃貸建物所有者賠償特約
賃貸オーナー様が共用部分の清掃をしている最中に、入居者の私物を壊してしまったり、入居者に怪我をさせてしまったりしたら大変です。
また、管理不足により建物の付属物が落下して入居者に当たってしまい大怪我をしてしまった場合も被害額は多額になる可能性があります。
そのような場合に補償されるのがこの特約です。
このように、賃貸経営や賃貸管理を行う上で起きうるリスクに対応するのが火災保険のプランや特約なので、しっかりと内容を理解して契約することが求められます。
免責特約の例
もう一つ大事なのは「免責」です。
代表的なものは「風災」の「20万円フランチャイズ」で、「被害額が20万円を超えた場合のみ保険金を支払う」というものです。
つまり、テレビアンテナが台風で転倒してしまい、アンテナ修理費用が20万円以下だった場合は、この免責が付いていると保険金が受け取れません。
また、浸水被害が発生した際に登場する「水災」も免責を付けることで保険料を削減することができますが、その反面で必要な場面で保険金が受け取れない場合が発生するため、水災であればハザードマップを確認するなど、アパートやマンションの立地や特性に合わせて選択する必要があります。
オプションサービス
私は賃貸借契約時に借主にはあいおいニッセイ同和損保の「ハイパー家財」にご加入いただいておりますが、その理由の一つはオプションサービスです。
例えば、鍵を紛失した際に無料で開錠してくれたり、排水の詰まりや漏水事故を24時間365日無料で対応してくれたり、賃貸管理を行う上ではとても便利なサービスがあります。(利用回数には限りがあります)
賃貸オーナー様が加入する保険にも様々なオプションが特約も含めてついている場合が多いです。
火災保険は積極的に活用しましょう!
「火災保険は一度使うと保険料が上がるんでしょ?」と質問を受けることもありますが、自動車保険と違って上限額までであれば何度使っても保険料が値上がりすることはありません。
また、事故申請を行って認定されなかった場合も、悪質でない限りはペナルティもありません。
ただ、最近は自然災害が多くなっているため、定期的に保険料は値上がり傾向があります。
今まで修繕費を自身で捻出していた事故も保険によって賄える場合も多く、借主が室内の設備を壊してしまった場合も保険を活用することで原状回復トラブルに発展せずスムーズに解決できる場合も多々あります。
私は賃貸管理サービスの一環として火災保険のアドバイスを行い、積極的に活用していますが、賃貸管理会社の多くは残念ながら火災保険の知識が乏しいのが実情です。
家主自身が頭の片隅に「火災保険が使えるかも?」と覚えておくことで、5年や10年単位で考えると数十万円~数百万円も収支が変わる可能性があります。
ご愛読いただきありがとうございました。